アタマのタマゴ

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 エドガンは、紅色のドラゴン、否、サラマンダーに『ヒリュウ』という名前をつけた。東洋ではドラゴンのことを『竜』と呼ぶことを知った彼は、せめて名前だけでもドラゴンを望んだのだ。  孵化した瞬間は落胆したものだったが、意外にもエドガンはヒリュウを気に入るようになった。一番の理由は、気が合う点だった。十年近く自分の頭の上にいたのだから当然かもしれない。エドガンが笑う時にヒリュウも笑い、エドガンが怒る時にヒリュウも怒り、エドガンが感動する時にヒリュウも感動した。  ヒリュウは何度かの脱皮を経て、孵化した時からずっと大きくなった。エドガンの頭の上がヒリュウのお気に入りの場所で、ヒリュウはたいていそこに座っているので、脱皮の度に重くなってきてそろそろきつい。余談だが、エドガンは最近、首の痛みに悩まされている。  またヒリュウは、他のモンスターと比べると知能が高い部類だった。エドガンが十二歳になる頃には、会話ができるようになっていた。 「ねぇ、ヒリュウ」 「あ?」  机の上のノートに鉛筆を走らせるエドガンの足下で、ヒリュウはひと欠伸。 「ここの問題が分からないんだけど……」 「あんだよ、そんなのも分かんねぇのかよ」  誰に似たのか少々口が悪いのが気になるが。頼れる兄貴分のような感じにさせるそんな口調も、エドガンは好きだった。 「わぁ、どうしてヒリュウはボクより頭がいいの?」 「ずっと頭の上にいたからな」 「だからって頭が良くなるかなぁ」  エドガンは何度目かの首ひねり。友人らのモンスターはこんなに頭が良くないし、それ以前に、ここまで人間らしく話すこともできない。人間の言葉を理解するだけでも数年かかるというのだから。  ボクの相棒は他と少し違うのかもしれない、そう思うと彼は嬉しかった。 「エドガン、その課題が終わったら外に行こうぜ」 「え、いいけど。何をするの?」 「決まってんだろ、走る練習だ」 「またぁ? ヒリュウ、どれだけ走っても全然速くならないじゃん」 「これからだ、これから。今に見てろよ」  エドガンの言う通りだった。ヒリュウは四本の足で走るのだが、短距離走をしてエドガンに勝てたことがない。『サラマンダー』はすばしっこく地面や壁を這うイメージのあったエドガンは、ヒリュウも成長すれば速くなるものだと思った。思って、二年が経っている。 「走るのは、ヒリュウには向いてないんじゃないの?」 「うるせぇ。これからだって言ってんだろっ」 「もぉ」  そうしてヒリュウはまた、エドガンの背中をするすると登り、頭の上の特等席に座る。鱗だらけの尻尾がエドガンの鼻の頭に垂れてくる。 「もぉ、勉強の邪魔だよぉ」 「集中だ、集中」 「もぉ」  
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