ブルー・コンプレックス

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「今度は」 彼は少しだけ笑って、言う。 「あんたの心に届いた?俺の言葉」 私は、うん、と言った。 じんわりと温かい心。 彼は私の隣に座った。 彼の顔がとても近かった。 心臓が高鳴る。 「……あんたも、言ってくれよ」 彼の茶色の瞳。 私は、彼の目を見つめて言った。 「……私も、谷崎が好きだよ、すごく……」 うん、と彼は言った。 「何か……スゲェ遠回りしたよーな気ィすんな、俺達」 ふふ、と私は笑った。 不意に、近づく、彼の瞳。 彼の高い鼻が、私の鼻を掠めた。 ……ストロベリーアイスクリーム。 私は目を閉じながらそう思った。 彼は、きっとキャラメル味と思っただろう。 「……あんた、まだ熱あるな、舌が熱い」 「……風邪、伝染るよ」 伝染ったっていーよ、と言って彼は私を抱き締めた。 また、いい匂いがした。 目を閉じると、高い青空に二人でいるみたいだった。 心が繋がるって、こういうことなんだ。 夕陽の中、手を振って歩いて行く彼を、見送りながら、私は心から笑うことが出来た。 時間を止めたいとか、戻りたいとか思っていたのが遠い昔みたいだった。 明日は、どんなだろう。彼と私。 私と母… これから、何が変わるだろう。 変わっていくのは、彼を好きになったからかもしれないと思いながら、私は徐々に深くなっていくオレンジの空を、見上げていた。 ブルーが後悔の色なら、オレンジは希望の色かな… 次に描く絵は、オレンジ色で描こうかなぁと思ってみる。 あぁ、そうだ。 明日は、明日こそはあの絵を仕上げよう、そう思って、玄関に入っていった。
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