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「もう、会えないと思ってた」
私が言うと、彼は何で、と言った。
あんなこと言っちゃったし、と、私は言った。
私はうつ向く。
「別に、気にしてねーから」
彼は何でもない、といった風に言う。
私は彼の目を見た。
澄んだ瞳は、私を真っ直ぐ見つめていた。
そうそう、聞いたよ、と彼は言った。
「ユリエの奴にやられたんだってな、あれ」
彼の瞳が、少し熱を帯びるのが分かった。
「……気付いてやれなかったなんて、俺、バカでごめん。あんたには、関係ねーことなのにな」
ユリエとは、昨日しっかり別れた、と彼は言った。
私は、黙り込んだ。
「ホント……ごめん」
謝らないで、と私は言った。
今まで心の奥に秘めてた気持ちが、溢れようとしていた。
「……谷崎と、あの娘が付き合ってるの知ってた。あの娘が、すごく谷崎のこと好きだってことも」
不思議と胸は痛まなかった。
「……谷崎が、セックスだけの関係って言ったとき、……心臓が止まるかと思った。そんな風に思われても付き合ってる彼女が、可哀想で……でもきっと、彼女はあなたのこと、すごく好きなんだって思ったら、なんだか……彼女のこと、憎めなくなった」
だって、あなたのこと、見てる距離の違いだけで…
私と彼女には、何の差も無い。
「私も、あなたをずっと見てたから、解る。遠くから、ずっと…」
あなたは、知らないでしょうけど、と言ってみた。
彼は、空のアイスクリームの入れ物を机の上に置いた。
椅子の背もたれの上に腕を組んで、顔を埋めてこちらを見る。
いつか、美術室で見たような風景だった。
「……あんたも知らねぇだろ、あの日、俺が担任の石塚に頼んで、自分から印刷室に行ったこと」
「…………」
「知らなかっただろ?」
悪戯っぽく笑う。
私は、何て言っていいか分からなかった。
「………やっと、俺に…気ィ許してくれたみてぇだな」
椅子から立ち上がって、彼は、私のアイスクリームの空の入れ物を取った。
机に置くと、彼は私の目を真っ直ぐに見て言った。
「今度は逃げないでくれよ。……つっても、ここあんたの家だし逃げれねーよな」
……あんたが、好きだ。
彼の言葉が、真っ直ぐに自分の心に入ってくるのが分かった。
心臓が、震える。
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