ブルー・コンプレックス

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ありがと、と彼は短く言った。 彼の横顔を見つめてみる。 長身に、茶髪、鼻が高い彼は、きっと女の子に人気があるんだろうな、という気がした。 彼は私が教えた通りに製本し、印刷を繰り返していく。 器用な人なんだろうか。 「今日は」 彼は横顔で言う。 「絵、書かないんだ」 私は黙っていた。 「……なんかあったの」 別に、と私はぶっきらぼうに答えた。 話したくないならいいけど、と彼は答える。 ぱしゃっぱしゃっと、次々に印刷されていく紙達。 幾つも幾つも、繰り返される作業。 私達はいつしか、全く喋らずに、時を過ごした。 でも、不思議と、教室にいたときのように、虚無感は感じなかった。 ここにいていいんだ、という不思議な感覚が、私を包んでいた。 「よし、終わったァ」 彼が元気よく言うのを聴いて、私は自分の印刷した分を持った。 鍵を掛けて、印刷室から出た。 職員室に戻ると、私達の担任はどちらもいなかった。 「……無責任なやつら」 彼がぼそっと言うのを、私は心で頷きながら聴いていた。 なんだか彼の正直さが、心地よかった。 帰り道。 当たり前のように、彼は私についてきた。 「江藤、何で逃げんの」 「別に、逃げてなんか」 避けないでくれる、俺無視されんの嫌いだから、と言う彼。 「一緒に帰ろうぜ」 何で、と私は訊いてみた。 いいじゃん、と彼は言う。 私は困惑しながらも、拒否の言葉を出せないでいた。 この人を、これ以上好きになりたくなかった。
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