4. ニロ・ブルック・ジュリアス

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 去ってゆくセルンの背中を見つめていれば、じわじわと切ない感情が胸に芽生えはじめた。    ……なに、これ。  ま、まさか……セルンを本気で意識しはじめているのか?   ふいに胸がざわめいた。  いや、だめだ。それだけはだめだ!  だって、いくら私の精神年齢とセルンの年齢が近いとはいえ、いまの年齢を考えれば普通に相手にされないことは明白だもの。セルンを思いつづけても結ばれることはない。  実は前世の記憶を持っていて……なんて馬鹿なことは言えない。言っても私の身体が幼いことに変わりはない。結局、これは無意味な恋だ。うぅ……。    もしかして無意識のうちにセルンを意識してしまったから、セルンをロリコンだと怪しんでしまったのかも。  ああ、本当にそうならなんと惨めな……。 「……もし」  一人でガックリとしていれば、いつとはなく目の前に誰かが立っていた。  顔を上げると、そこにはしかめ顔のニロがいた。  王子……! また怒りにきたのか……!  慌てふためいていると、ニロに険しい眼差しを向けられた。  王子の顔が怖いよどうしよう……。と、とりあえず謝罪でもしようか。 「申しわ──」 「──不要だ」  頑張って口を開いたがニロに遮られた。  さっきからずっと私の目をジロジロと見つめてくるけど、なんでなの?   (顔は怖いけど、一応許してくれた……ってこと?)  そう思いつつ、ひどく焦りを覚えていれば、突然ニロが呟いた。 「そうだ」  そうだって何……?   きょとんとしていると、ニロに両頬を包まれてクイッと引きよせられた。  今度はなに?! 「目だ」  ……目?     なにが言いたいの? よくわからないよ……。  謎めいた発言にひどく困惑していると、ニロが再び口を開いた。 「ふむ。どうやら、お前の目から思考が聞こえてくるようだ」 (え、思考⁇) 「余もわからないが、なぜかお前が口に出さなくても伝わる」  混乱している私にニロは真顔で説明した。冗談をいっている……わけではない? (伝わる? 汲み取る……ってことなのかな?) 「汲み取りではない。鮮明に聞こえるのだ」 (聞こえる? いや、嘘でしょう……) 「嘘ではない」 (……)  どう反応すれば正解なの?  あまりにも荒唐無稽に聞こえたので、一瞬だけ思考が停止してしまった。   「なんだ。余の言葉を信じてはくれないのか……」  とニロは少し不安げな顔をした。 (い、いいえ、そういうわけではなくて……ってあれ?)  そういえば、さっきから一度も口を開いてない。それなのに、普通に会話できた気がする。  うそ。  もしかして本当に心の声が聞こえるのかな……? (も、もしもし……?)  こっそり心の中でそう囁いてみた。 「……もしもし」  呆れたような顔だがニロが答えてくれた。   (本当に聞こえてる……! すごい、信じられないわ!)  これが <タレント> ってやつか!   私のしょぼいタレントとちがって素晴らしいわ。  これぞ『超人的能力』よ!  興奮してニロの手を握った。 (本当にすごいわ、殿下! これも聞こえるでしょう? 不思議だわ!) 「……ふむ」  とニロは少し頬を赤らめた。  これなら唇が固くても、会話を楽しめる!   夢のような出来事に感動してさらにニロの手を握りこんだ。 (目から思考が聞こえるって言ったわね? だからさっきからこうやって私の目を見つめてたのね。なるほど)  嬉しそうに情報を整理していれば、ばっとニロが眉を寄せた。  ……うっ、怖い。 (も、申し訳ございません! つい興奮して敬語を忘れてしまいました……)  浮かれて普通の口調で話しかけてしまった。これでまた王子を怒らせてしまったらどうしよう……。  あたふたしていれば、ニロは困った素振りをみせた。 「……敬語ではなく、お前の手」
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