【南の国編】 41. 影絵芝居

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「堂々とあくびをするな。セルン」 「お前こそ堂々と先輩にものを言うな」  セルンにそう返され、ニロは不快そうに腕をくむ。 「……なんだ。その態度は?」 「あのな、ニロ。お互い護衛だから普通に接していいと言ったのはお前だぞ?」 「ふむ。無論。余が指摘したのはその口調ではなく、其方の態度だ。セルン。初日から気が抜けすぎだ」 「態度? あくびくらいで? あーあ。だからオレはマジメなやつが苦手なんだよ。イチイチめんどくせ」  う、露骨に嫌そうな顔をしないで、セルン……。いまのニロは王子ではないからってその言い方はよくないよ……。  案の定ニロの顔に不満げな色が浮かんだ。 「セルン、其方は──」 「あのさー、ニロ。お前がくっそマジメだから言うけどさ。同じ護衛ならオレの方が歳上で先輩なんだぜ? さん付けくらいしたらどうだ?」 「…………っ」  セルンに発言を遮られ、ニロは更に眉根を寄せた。  ど、どうしよう。ニロがそろそろ怒り出しそうだ……。  言い合いにならないかと不安になったが、予想と反してニロはただ「ふんっ」と鼻を鳴らし、そっぽを向いただけだった。  あれ? ニロが言い返さない……。  ということは、一応正論だと認めたってこと……?   ニロの反応を見て同じことを考えたのか、セルンは得意げに笑った。  あ、嫌な予感がする。 「ほらニロ。言ってみろ、セルンって……ん?」 <わざとニロを怒らせないで、セルン>  紙でセルンを止めた。 「いやオレは後輩を指導してるだけだよ?」 <ダメだよ。仲良くしよう> 「あいつがさん付けしてくれたらな」  いつもなら敬称なんか気にしないのに、こういう時ばっかり無理難題を言うんだから、もう……。  あっ、でもニロは否定してないから、もしかしてありかも……?  ふとニロの方を向くと、その期待が届いたのか、すっとニロが立ち上がった。 「考慮の余地もない」  言いながら地図を本棚に戻すと、ニロはそのまま立ち読みをはじめた。  喧嘩にならずにすんだけど、相変わらずピリピリしているわね……。
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