557人が本棚に入れています
本棚に追加
「堂々とあくびをするな。セルン」
「お前こそ堂々と先輩にものを言うな」
セルンにそう返され、ニロは不快そうに腕をくむ。
「……なんだ。その態度は?」
「あのな、ニロ。お互い護衛だから普通に接していいと言ったのはお前だぞ?」
「ふむ。無論。余が指摘したのはその口調ではなく、其方の態度だ。セルン。初日から気が抜けすぎだ」
「態度? あくびくらいで? あーあ。だからオレはマジメなやつが苦手なんだよ。イチイチめんどくせ」
う、露骨に嫌そうな顔をしないで、セルン……。いまのニロは王子ではないからってその言い方はよくないよ……。
案の定ニロの顔に不満げな色が浮かんだ。
「セルン、其方は──」
「あのさー、ニロ。お前がくっそマジメだから言うけどさ。同じ護衛ならオレの方が歳上で先輩なんだぜ? さん付けくらいしたらどうだ?」
「…………っ」
セルンに発言を遮られ、ニロは更に眉根を寄せた。
ど、どうしよう。ニロがそろそろ怒り出しそうだ……。
言い合いにならないかと不安になったが、予想と反してニロはただ「ふんっ」と鼻を鳴らし、そっぽを向いただけだった。
あれ? ニロが言い返さない……。
ということは、一応正論だと認めたってこと……?
ニロの反応を見て同じことを考えたのか、セルンは得意げに笑った。
あ、嫌な予感がする。
「ほらニロ。言ってみろ、セルンさんって……ん?」
<わざとニロを怒らせないで、セルン>
紙でセルンを止めた。
「いやオレは後輩を指導してるだけだよ?」
<ダメだよ。仲良くしよう>
「あいつがさん付けしてくれたらな」
いつもなら敬称なんか気にしないのに、こういう時ばっかり無理難題を言うんだから、もう……。
あっ、でもニロは否定してないから、もしかしてありかも……?
ふとニロの方を向くと、その期待が届いたのか、すっとニロが立ち上がった。
「考慮の余地もない」
言いながら地図を本棚に戻すと、ニロはそのまま立ち読みをはじめた。
喧嘩にならずにすんだけど、相変わらずピリピリしているわね……。
最初のコメントを投稿しよう!