【南の国編】 41. 影絵芝居

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 あれは……塔? 下は丸いのに上が尖っている……不思議な形ね。  塔の先端に付いている鏡のようなものがギラギラと太陽光を反射している。 「異な形をしているな」  とニロもそれに目を引かれた。 (ニロもそう思う? あんな山の奥に……なんの建物だろう? 気になるね) 「ふむ。そうだな……。よし、行ってみるとしよう」 (え?) 「自由に散策してよいとジョセフ殿も言ってあるのだ。お前もあの塔が気になるであろう?」 (そうだけど……でもセルンがまだ寝ているから……) 「ふむ。ちと散歩するだけだ。セルンはこのまま寝かせておくとよい」  寝かせるって……さっきまで『ぞんざい千万』とかあんなに怒っていたのに、なんでいまは嬉しそうなの……。 (ダメだよ、ニロ。セルンが起きたら心配してしまうからいけないよ)  なにも言わないで行ったらあとでセルンに怒られそうで怖い。 「……そうだな。ふむ、であれば……二人で、散歩っと。……これでよかろう」  紙にきれいな線を引くと、ニロは私の手を引っ張り歩き出した。  前を歩くその広い背中を見て、だんだんと胸が鼓動を増していく。  二人だけで散歩って……、そんなの、まるでデートみたいじゃない……!  そうしてセルンにメモを残し、ニロと外へ出掛けた。  道標はなかったものの、石積の山道に沿って進むと、苦労することなく塔に辿り着くことができた。 (涼しいわ……)  一つしかない入り口から塔に足を踏み入れると、一気に気温が下がり湿った空気が流れる。窓もなく暗い塔の中は空洞になっていて、壁に灯してある蝋燭の明かりが高い天井を薄っすらと照らす。 「……ふむ。これは粘土だな」  ニロの真似をして壁に手を当てると、ひんやりとした感触が伝わった。 (土で断熱しているのね……すごいわ)  蒸し暑い外と違って、かなり気持ちいい。そうして薄暗い塔の奥へ進むと、突き当たりに大きな蝋燭が2本立っており、その間の壁には穴が空いている。  小さな蝋燭が何本かと……ん? これは……餅米? 納め物なのかな……?   しゃがんで穴を覗いていると。 「これは妙だな」  横からニロの声が響いた。
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