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(……ここは寺院……の跡地かな?)
地べたに置いてある餅米はまだそれほど日が経っていないようだが、動物に食い散らかされ、穴の中にはゴミと塵が溜まっている。
「ふむ。そうだな。まだ参拝されているようだが、手入れはされていない……さても奇妙だな」
(確かにそうね……ここに何かの像が置かれていてもおかしくはないのだけれど……)
昨日読んだ本の内容からすると、ここは多分寺院と呼ばれる神聖な場所で、元の宗教である女神を祀るところだ。
「……ふうん。そうか。いまは聖女教に変更したからこのアットが放棄されたのか」
私の思考を読んだのか、ニロがそう納得した。
私を聖女とする宗教は生きる神を拝むもので、王都にある唯一の神殿で礼拝するのが新しい習慣だ。
それですべてのアットは廃墟になったのか……。宗教戦争の影響がここまで出ているとは……素敵な塔なのに、勿体ないわ……。
そうして、ふと虚しく感じていれば、
「……気にするな。フェーリ。時代はこうして流れてゆくものだ」
とニロが気遣ってくれた。
(そうだけど、なんだか申し訳ないわ……)
「ふむ。そうだな。ただここはまだ奉納品も残っている故、完全に放置されたわけでもなかろう」
(…………)
雑に置かれた供物の残状をみて、何気なくいたましい気持ちになった。まだ女神を信仰する人もいるはずなのに、これはひどいわ……。
「……?」
つくねんと座っていると、ニロが穴の中に手を伸ばした。
(……ニロ? なにをしているの?)
「掃除だ。フェーリ。我々でここを綺麗にするとしよう」
そう言うとニロはゴミを拾い始めた。そして汚れることを恐れず、手で床に溜まった塵をすくう。
あそうか……いまの思考が……。それで私を元気付けようとしてくれたのね。相変わらずニロは優しいわ……。
せっせと手を動かすニロに負けじと私も立ち上がり、周辺に散らかっている葉っぱや枝をかき集める。
片付けたところで意味はないのかもしれない。しかし何もしないよりはましだ。
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