【南の国編】 41. 影絵芝居

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 かっかと胸が熱くなり不意に固まると、額に密着する感触が伝わってきた。ああ、いつも通り額を寄せてきただけか。びっくりしたわ……。    こっそりホッと胸を撫でおろす。  セルンに悩まなくていいと言われたが、それでも婚約している身でニロと唇を重ねることに負い目を感じてしまう。 「……すまない。フェーリ」  長いまつ毛をあげて、ニロは真顔で私を見つめてきた。 (……どうして謝るの?) 「ああ、……ふむ。この間、余が己を制御できなかったゆえ、お前に負担をかけてしまったろう……」 (……私に負担?) 「ふむ……。この数日間、お前はよく眠れなかったであろう? ……余との、せ、接吻のことで……」  やや赤みの帯びた頬でニロが答えた。  え、悩みのことがバレてしまったの? 必死に考えないようにしていたのに、どうして……? 「フェーリ。お前は余から隠し事をしないと約束したであろう?」    いまの思考が伝わったのか、ニロに困った顔をされた。 『とにかく今後は余に隠し事をするな、何かあったら真っ先に相談したまえ』  8年まえ、指切りでニロとそう約束したわ。そうか、それでニロが怒ったのか……。 「余はもう二度とお前を困らせない。ゆえにしかと婚約を解消させてから、お前の唇に触れる」  そう言うとニロは私の小指に自分の小指を絡めて、上下にふった。 「これは約束だ」  真剣な眼差し。  ちらちらと揺れる蝋燭の火を映すニロの瞳は、宝石のように透き通って、異様に輝いてみえた。 (……ありがとう、ニロ。そして約束を守らなくてごめんね……)  覚えているけれど、あれはニロに言える相談ではなかった……。 「謝るな、フェーリ。約束を忘れたわけではなかろう?」 (うん……)  思考だけではなく、なぜだかニロにはすべての心情を把握されているような気がする。 「……お前に嫌な思いをさせてすまなかった」  私の頬を包み込んで、ニロは囁いた。
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