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「だめ、なのか……?」
恥ずかしくて、つい無言でいると、再びニロの声が響いた。
はじめから戸惑うことなんてないのに、すぐに返事が出なかった。おずおずする自分をここまで嫌だと思ったことはない。もっと素直になれと勇気をふりしぼり、声を出した。
「ダメ、じゃない……」
もじもじと手を差し出せば、ニロはホッとしたように熱い息をこぼした。
うっ、震えが止まらない……。
瞳を絡ませあい、二人の指先が触れる。
とたん、ピリッとした甘い痺れが背筋を駆け抜けた。
「…………っ」
静電気……?
息を呑み、思わず手を引っ込めようとしたけど、がしっとニロに掴まれた。見あげれば、そこには堪え難そうな表情があった。
(ニロ……?)
動揺する私をみすえたまま、ニロの喉が動いた気がする。
「……すまない、フェーリ。……ちと、だけ…っ」
そう呟いたニロの目元はほんのり朱く染まっていた。
(ちょっとって、なに……)
ニロは返事をせず、ただ桃色の唇を甘噛みして、距離を迫ってきた。
心の中で予想がつき、罪悪感と期待に胸が躍りだす。
うそ。でも、そんな……。さっき、約束したばかり、だから……。
じぃと身をこわばらせていれば、鼻先にニロの唇が触れ、チュッと小さな水音がなった。
あれ? と目をしばたたかせる私をみて、ニロは甘く微笑んだ。
「フェーリ。あいし──」
「──うわぁあ! お化けだ!」
「ええええっ!!」
「!」
ニロの声をかき消すように、塔の中に悲鳴がかちあった。驚いてすっくと立ち上がると、目の前にはわなわなと震える小さな人影が見えた。
小麦色の肌。地元の子供たちなのかな……?
呆然と彼らを見つめていると。
「うぁああ……! もう二度と壁に落書きしないから許してぇ……!」
男の子が鼻水を垂らしてそう叫ぶと、後ろにいる女の子もポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
「嫌だあ! ベイサの島に行きたくない……!」
「飴さんあげりゅから……連れて行かにゃいで……うぇーん」
と一番幼く見える男児がひっくひっく泣き出した。
ベイサ……これは南に伝わる怪談の一つで、悪戯っ子を死者の島へ連れて行くお化けのことだよね。白い顔で手を長く伸ばせるから、先に逃げ出した子から捕まれると本に書いてあったわ。
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