【南の国編】 41. 影絵芝居

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「ワニってなにー?! 強いやつ? オオカミよりおっきい?!」 「なに言ってんのよ、リット! 名前から可愛いじゃん! ウサギみたいとか?」 「……ワニ……ニワ……ニワトリ?」  と三人が興味を示してきた。  この国に生息していないから、名前を聞くのも初めてなのかな? 事前に南の国を調べてきてよかったわ。 「ふむ。余も絵画で見たが、あれは確かに奇妙な動物だ」  納得した様子でニロが頷いてくれた。 「なーなー! どんな動物?!」 「ふさふさなの?! ねえ、教えてお兄ちゃん!」 「……トリ、とべりゅ?」  そう迫られ、ニロは咄嗟に蝋燭の灯りでワニの影を作った。 「ふむ。大体ではあるが、頭はこんな形をしている」 「これ口? なげぇ〜」 「わ、なにこれ、……面白い」 「ちゅごい……」    三人揃ってその影に魅了された。 「すげぇ、……なーなー! ほかの動物もできる?! オオカミ見たい! わかる?」 「やだー! あたしウサギがいい! お兄ちゃんウサギやってよー!」 「ナック……トリみりゅ!」  と子供たちにせがまれ、 「ふむ、そうだな。飴の代金だ。一芝居打ってやるとしよう」  そう言ってニロが手で動物の影を作りはじめた。  その顔には屈託のない笑顔がある。  まあ、ニロは手影絵ができるのね。……知らなかったわ。  楽しそうにしているニロの横顔を見つめ、胸が幸福感でいっぱいになった。  ニロはいつも顔をしかめてばかりだが、南の国に来てから本当によく笑うようになった。  一応これも立派な仕事だけれど、一緒に来られてよかったわ。  そうして時間を忘れて子供たちと愉しいひと時を過ごしていると、ふとセルンのことが頭をかすめた。  慣れない環境でセルンを独りぼっちにして、自分たちだけ楽しむのが申し訳ない。 (ニロ、そろそろ帰ろう? セルンが心配だわ) 「ん? ああ、……そうだな。ふむ。今日はこれでお仕舞いだ」    なんとなく名残惜しそうな様子だが、ニロはすぐに了承した。 「えー! オラまだまだみたいー!」 「あたしもー!」 「ナック……もう一度……トリみりゅ!」  そう粘る三人に、ニロは困った顔を見せる。 「だめだ。お前等の親も心配するであろう。今日はもう帰りたまえ」 「えー! やだやだー!」    騒ぐ二人の近くでナック君は無言でもぞもぞとポケットの中に手をつっこんだ。そんなナック君に気づくと、ニロの口元は柔らかい弧を描いた。
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