【南の国編】 41. 影絵芝居

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「なんだ。飴を探しているのか、ナック?」 「うん。ナック、また飴持ってくりゅから、……お兄ちゃんトリして?」  うるうるした瞳のナック君に見上げられ、ニロは微笑ましそうに答えた。 「ああ、よかろう。明日もここに来るとしよう」 「ほんとー?!」  リット君とニタちゃんの声がかちあった。  本当だ、とニロが約束すれば、三人は一斉に白い歯を見せて喜んだ。  肌の色が変わるだけで、どこの国でも子どもは無邪気でかわいいものね、ふふっ。  足を揃えて外に出ると、すでに太陽は沈み、辺りは風になびく葉擦れの音と虫の鳴き声に包まれていた。  塔の中が暗かったから気づかなかったけれど、だいぶ日が傾いてしまったわ……! 「あぁっ、もうこんな時間! ママに怒られちゃう!」  ニタちゃんがそう慌て出すと、 「ゔわああー! またババに尻を叩かれるよー!」  リット君もがたがたと顔を蒼ざめた。 「ああ、二人とも案ずるな。これは余の責任だ。お前等の住まいまで送り届けて訳を話すとしよう」 「ええ! ほんとー?!」 「ふむ。いずれにせよ、お前等だけで山道を歩かせる訳にはいかなかろう?」 「わぁい、やったー!」  胸を撫で下ろす二人の隣で、ナック君はもじもじとニロの顔をみた。 「どうした、ナック?」 「……ぅん、ナっ、……ナック、……お手手、……繋ぐ」  勇気をふりしぼって言った様子のナック君に、ニロは可笑しそうに笑った。 「ふむ。いいぞ」    希望どおりニロに手を繋がれて、今度はナック君は私のほうを向いた。   「……お手手?」  やや上気した頬で、ナック君がふっくらとした手を私に差し出してきた。  ああ、本当にかわいい……。  無表情だろうけど、嬉しそうに点頭してその手を取ると、突然ナック君が歓声をあげた。 「かちょく!」  その幼い顔には満面の笑みが開花している。  ……家族?   確かにこうしてみるとナック君は私たちの子みたいだね。うふふ〜。  そうか。ニロと、私の子、……か、って、違うちがう違う……っ!  まだ婚約も解消できていないのに何を考えているのかしら、私ったら……!  ポッポと一人で顔が熱くなった。    こんなことを妄想していたなんて、ニロにバレたら恥ずかしすぎる……!  そうしてそっぽを向いたまま、クニヒト家の使用人が暮らす、数十軒の家が固まっている(ふもと)へと降りた。
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