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42. 江戸の味
「あーっ! やっと帰ってきた!」
木材で作られた二階建ての家に到着するや否や、突如上の方から叫び声が轟いた。
反射的に見上げると、窓からむっくりとした体を乗り出し、怖い顔で私たちを見下ろす女性の姿が視界に飛び込んだ。
「こんな時間までどこほっつき歩いたっさー!」
と手すりのない外階段を駆け下りてきた中年女性は、目を吊り上げて三人を睨む。
「すまない。余がしかと時間を確認しなかった故、彼等をこの時間まで付き合わせてしまった」
そう言ってニロが頭を下げると、私たちに気づいた女性はびくっと表情を一変させた。
「まーまー! あんたさん珍しい外見さね! 今日きた屋敷のお客さん?」
「ふむ」
ニロが頷けば、
「ニロとフェーだってよー! 海外の人だよー!」
「ねえ! 本物だよママ! 本物!」
リット君とニタちゃんが明るい顔でそう紹介してくれた。
「まーまー! クニヒト宰相のお客さんで海外のお偉い……さん?」
途中で女性は顔に困惑の色を浮かべた。
まじまじと私たちの体を見ているわ。一応南の服装に合わせているのだけれど、似合わないのかしら?
近くにある灯の明かりで自分の身なりを確認すると、ドレスのあちらこちらに土がついていて、小汚く見えた。
ニロの方にも目をやると、彼の白いシャツには袖から移った木炭のシミが目立ち、私よりも汚く見えた。
あっ! 塔の中が暗かったからわからなかったのだけれど、二人ともかなり汚れているわ!
同じことに気づいたのか、ニロはすかさず口を開いた。
「余とフェーはただの付き人だ。気遣わなくてよい」
「まー! そうさね、海外の付き人さんはいいものを着るさね!」
女性はだいぶ驚いたようだが、すんなり納得してくれた。
「ねえねえ! ババは? お兄ちゃんとお姉ちゃんをババに紹介したーい!」
ニタちゃんに腕を掴まれ、女性は腰に手を当てて再び怒り出す。
「あんたらを探しに行ったっさー!」
「そんなー! じゃーオラがババを探してくるよー!」
「待った待った!」
ぐるりと走り出したリット君の襟を掴んで女性が声を荒げた。
「あんたが行って迷ったらどうするさね!」
「やだやだー! 迷わないから離してよオバ! オラ早くババに二人を紹介したいーって痛てぇ!」
女性にゲンコツされたリット君は両手で頭を覆った。
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