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また同じ質問だ。
最近会えばフィンはそう確かめてくる。
この貴族社会は私の思っている以上に身分制度に厳しい。
だからか分からないけれど、無表情でしかも令嬢の私に話しかけてくる人はこの屋敷でフィンしかいない。
ここのしきたりをよく分からず、最初はみんなの前で普通にフィンと接してしまい、彼はそのあとメルリンにひどく怒られてしまったらしい。
『フェーは稀にしか見られない天才。今後コンラッド家の未来を担うすごい人だ。でも俺は準男爵家の子で、才能も身分も何もない。だからフェーのそばに居ていいやつじゃないって、ママが言ってた……』
望んだわけではないけれど、せっかく転生したのだから、今世こそ穏便に日々の生活を送ってみせる……!
そう意気込んでいたのに、突然コンラッド家とか、荷が重すぎて無理むりっ!
フィンから聞かされた周りの過大な期待にゾッとしたのも束の間、言いながらひくひく涙をこぼすフィンの姿があまりにも心細そうで、思わず彼を抱きしめてしまった。
『フィンが、好き。だから、一緒に、……いて』
勢いでそう言い出したのは私だけれど、よくよく考えたらあれは誤解を招きかねない言い方だったわね……。
弟として好き、って強調するべきか? でもフィンの方が先に産まれたから、年齢的に少し上なのよね……。
どうしようと戸惑ったが、フィンのうるうるした眼差しに負けて、ふいに首肯した。
「うひょ〜い! やった〜、俺もフェーが大好きだぜー!」
ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねてから、フィンは私の前に片膝をついた。
「なー、フェー。俺は超頑張って剣術を身につけるから、それでいつか必ずフェーにつり合うやつになるから、そしたら堂々と一緒に遊ぼう!」
力強くそう言うと、フィンは自分の胸元に拳を握った。
これは、騎士の誓い……の真似事かな?
いつか堂々と一緒に遊ぼうって、まあ、なんて愛らしい!
ほっこりしてコクコク頷いたところ、コンコンと扉を叩かれた。どうやら夕食の時間になったらしい。
フィンとこっそり会うために、読書の間は1人にして、と侍女たちに言いつけてある。
「じゃあまたくるよ、フェー!」
窓枠に腰をかけ、泥まみれの靴を雑に履きながらそう言うと、フィンはヒョイと飛び降りて中庭へと走って行った。
そうして侍女に案内され、広すぎる部屋でいつも通り家族3人の気まずい食事をとり終えた時、矩形のテーブルの向こうから急な話がふってきた。
「……王都? ……明日、出発?」
「うん。君の社交界デビュー、そして教育のためにもこんな辺境ではなく、王都のほうが相応しいと思ってね、フェーリ。ちょうど私も用事があって王都へ行くから、君もついて来なさい」
優雅に口を拭きながらそう言うと、まだ仕事があるとのことで父は部屋を去っていった。
有無を言わせないその雰囲気に困惑していれば、隣から母の声が聞こえてきた。
「フェーリ。私は領地の管理で一緒にいけないけれど、あちらに行ってもあなたはしっかりと本を読み、コンラッド家の令嬢に相応しい立ち振る舞いを常に心懸けること。いいわね?」
貴族特有か分からないけれど、コンラッド家の家族関係は割と淡白。
暖かい家族なんて前世でも珍しいもの。当然かと受け入れているが、本心をいえば少し残念だ。
一拍の間を置いてから了解の意を示すと、母はどこか悲しげに目をそらし、女中頭に手を支えられながら自室へと戻っていった。
明日の朝王都へ出発するとなると、フィンに別れも告げられないわね。
だって今探しに行ったら、きっとフィンがメルリンに叱咤されてしまうもの。
期間を教えてもらえなかったけれど、すぐに戻って来られるといいわ……。
何気なく暗い気持ちのまま、忙しく荷造りを始める侍女たちを遠くから見守った。
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