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2. 怪しげな騎士
********【情景】
王国の王都は、今日も賑やかで活気に満ち溢れている。
雑踏の中、明らかに他のものと違う高雅な雰囲気を醸し出す馬車が4頭の馬に引かれて堂々と道中を走っている。
「緊張してないかい? フェーリ」
馬車に乗っている細身の中年男性は、温もりのある微笑みで少女に問いかけた。さっきから不思議と同じ表情しか浮かべない少女は、人形のような美しい面持ちで男性に頷く。
「……そうか。初めての場所はやはり緊張するね? これから暫くは私と一緒に王城付近で寝泊まることになるけど、聡明な君ならきっとすぐ慣れるさ」
慈愛に満ちる男性の顔を見つめて少女は再び小さく頷いた。
「私は公務で忙しくなるだろうけど、君は馴染んでからでいいから王城内を自由に散策しなさい、ただ絶対にセルンのそばから離れないこと、いいね?」
「……はい」
「うん、いい子だ」
そう呟くと男性は窓の方に視線を移した。
外には馬車に寄り添って馬を走らせている若い男──コンラッド家の護衛長であるセルン・ガールドの姿があった。
かつて誇り高い王国騎士団の副団長を務めただけあって、男の貴族らしい服装の上からでも、その引き締まった筋骨を感じることができる。
「セルン、フェーリを頼む」
「はっ、ドナルド様。お任せください。何があっても必ずお嬢様をお守りいたします」
「うん、任せたよ」
温厚な笑顔を向けられ、セルンはもう一度しっかりと頭を下げた。
そうして馬車は繁忙な都心部を通りぬけ、王城につなぐ一本の並木道に沿って速度を上げていった。
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