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27. 計画書
*********【フェーリ・コンラッド】
「お嬢、どうぞ」
ニコニコと書斎に入ってきたセルンの手にはショートケーキがある。
実は先日、突然セルンから手作りのケーキを出され、甘いけど美味しいよと伝えたらそれが毎日出るようになった。
手間をかけて作ったから食べないわけにもいかない。けれど、正直いうとやはり甘いものは苦手だ……。
しばらくケーキと睨めっこした私は観念して渋々ケーキを口に運ぶ。
しっとりするスポンジケーキとなめらかなホイップクリームは舌の上で溶けて、上品なバニラの香りが広がった。
「……美味しい」
素直に褒めるとセルンは頬を赤らめて嬉しそうに笑った。
あ、この調子だと明日もケーキが出てくる……。
<でもやはり甘い>
文句に近いこの感想を読んでもセルンは相変わらずいい笑顔を浮かべた。
「でも美味しいだろう?」
と謎の言葉が返ってきた。
ケーキ自体は美味しいので、甘くなければ喜んで食べるのに、なぜかセルンは甘くしないと気が済まないらしい。
買ったものではなく手作りだから全部食べないと申し訳ない。
かと言って甘いものが大の苦手だからこれ自体がある種の拷問というかなんというか……。
こういう時フィンがいてくれれば喜んで代わりに食べてくれるのに……。
そうしてふとフィンのことを思い出し、思わず疑問を紙に書き記した。
<そういえば、フィンは今なにをしているの?>
「ああ。あいつなら大丈夫だ。つい最近西の国で立派に出世を果たしたようだからな」
<フィンが今西の国にいるの?!>
勢いよく紙を突き出したら、セルンは「あそうか。お嬢は知らなかったのか」とばつが悪そうな顔になった。
それから数秒ほど悩むと、諦めたように説明してくれたのだ。
「実はな、フィンは8年前から西の国に移住したんだよ。そこでアンジェロ……いや、元騎士長について剣技を身につけてその実力で大活躍してるんだぜ。まぁ、だからお嬢は心配しなくていいよ」
<なんでフィンは王国ではなく、西の国にいるの? セルンの知り合いにフィンを託したんじゃなかったの?>
「いや、それはその……うーん、色々あってあいつは西の国に生まれた孤児という出身になっているんだよ……」
困った顔でセルンがそう説明してくれた。
西の国に生まれた孤児……? なにそれ……。
よく理解できず驚愕していると、セルンは近くにある書類の山から厚めの報告書を取り出して私の前に置いた。
「そんな話はどうでもいいから、とりあえずお嬢は事業の方に集中するんだ、もうかなり書類が滞っているよ?」
セルンの忠告に負けじと強気で、<色々ってなに、教えて> とせがむと、
「詳細はこの中のどれかにあるはずだから読めばすぐわかるよ」
鍵のかかった本棚を指差しつつセルンが言った。
今まで全く確認できなかった政治の書物だ。中にフィンの事情も含まれているのか! 急いで本棚を開けようと鍵に手を伸ばしたとたん、こほん、とセルンが喉を鳴らした。
「コンラッド家の事業よりも政治の書物を優先したってドナルド様に知られても大丈夫かい、お嬢?」
見事な作り笑顔。
まさか社長の名前を出して脅してくるとは……。
背中に嫌な汗をかきながら、文句を紙にぶつけた。
<セルンは私の味方じゃないの?>
「お嬢を守るためなら喜んで命を差し出すよ」
拳を胸に当てながらセルンは本気であることを強調した。
うぅ、そんなことを言われたら、なにも言い返せないじゃない……。
優しく微笑むセルンに返す言葉をなくし、やけになって甘いケーキをもう一口食べた。
うっ、やっぱり甘い……。
心なしか昨日のよりも少し甘い気がする。もしかしたら少しずつ甘さを増やしているのか……? いや、そんなばかな……。
ちらりとセルンへ視線を投げかけると、そこにはキラキラとした笑顔があった。すごい上機嫌のようだ。
意図的に砂糖の量を調整しているのか……? いや、勝手に怪しむのはよくないわ。セルンは私のために頑張って作ってくれたのだから。
仕方なく再び事業の報告書を開き、これを作ったセルンも同じくらい甘ければいいのに……、とこっそり愚痴ったのだ。
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