28. 食事会

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「失礼致します」  入室許可を下すと、5人のメイドが続々と入ってきた。  多くの人に囲まれることを好まない。だから世話周りをメルリンだけに限定しているのだ。なんで急に入ってきたのだろう? と小首をひねったところ、その奥から背の高い女性が静かに姿を現した。  細身で吊り目の厳しい顔……。この人は、モンナ……!  え、モンナは母と一緒に元の屋敷にいるはずじゃないの……!  びっくりと後ずさる。  女中頭であるモンナは、母の専属メイドだ。  優秀で厳然のモンナは昔から私に厳しい。  母から預かってきた難しい専門書を持ってきて、読み終えるまでじっと監視することもあった。  そう、モンナは正に母の分身そのものだ……! 「ご無沙汰しております、フェーリ様」  厳粛な表情で、モンナは四角い眼鏡の位置を直した。  うぅ、幼少期のトラウマが蘇るよ……。    ぷるぷるとメルリンの後ろに隠れた。  モンナがここにいるということは、母からの便りがあるということだ。  母からの誕生日祝いを届けにきたのか……?  いや、そんなはずがない。だってドレスは先週から届いているもの。  そもそも母がモンナにプレゼントを持たせるはずがない。  心の底でわかっているのさ。厳しいモンナをわざわざ送ってくるということは、十中八九は説教目的だと……。  うっ、なんだろう。公爵家の男を失神させたからか……?  それとも勝手にコンラッド家の領地に実験を敢行したからか?    あ! もしかしたら事業進捗の確認が滞っているから?  うん、だめだ。心当たりが多すぎてわからないよ……。  さっきまで暖かかった胸がさぁーと冷えて、恐ろしい不安に駆られた。  おほん、とモンナの険しい視線に気づき、慌てて背筋を伸ばした。宜しい、と少し満足した様子で、モンナが口を開く。 「フェーリ様。お化粧をなさらないまま舞踏会に参加したとお聞きして、奥様は大変驚かれました。礼儀作法の根本からもう一度教えるよう言われ、このモンナが参った次第です」  え?! 舞踏会のこと、母にバレてたのか……!  一瞬にして背筋が凍った。メルリンをみると、そこには同じ青ざめた表情があった。  あれ、メルリンが漏らしたのではなければ、一体誰が……? 「フェーリ様。まさかとは思いますが、今晩のお食事会にもこの姿で向かわれるおつもりですか?」  びくっと図星を突かれて、無表情だろうけど焦った。するとモンナは再び眼鏡の縁に手を当てて、目を細める。 「フェーリ様、そろそろ16歳のお誕生日を迎えると言うのに、淑女としての自覚が全く足りないのではありませんか!」  う、怖い。顔が怖いよ、モンナ……!  泣きそうになった私を庇うように、メルリンが前に出てくれた。嬉しいけど、相手はモンナだよ。メルリンまで怒られちゃうよ……! 「メルリン、あなたもです。フェーリ様を甘やかしすぎです!」  案の定、モンナの雷が落ちた。  わなわなと互いの手を握り、メルリンとそろって後ずさった。  壁際まで下がると、モンナは余裕のある歩調で近づいてきて、私たちの肩に手をおく。 「いいですか、フェーリ様、メルリン? 淑女の正装とは服装だけではないのです。お化粧ありきでなんです!」  地を這うような低い声だった。  ひぃっ! と逃げる隙もなく、それから長い時間をかけて私に化粧を施しながら、モンナが説教を続けた。
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