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食事会が始まるギリギリの時間までモンナに厳しく説教された。
ぐったりして自分の容姿を確認することなく、廊下に足を踏み出す。
部屋の外にいるセルンの前に行くと、
「お嬢……⁈ えっ、これは……⁇」
目をパチクリさせて、セルンがまんじりと私の顔を見た。
なに? のつもりでセルンの顔を見上げていれば、じわじわとその頬が赤く染まっていく。
おほん、とモンナの咳払いが聞こえて、ドキッとセルンの肩が跳ねた。
「……モ、モンナさん! ただの食事会でここまで本気を出す必要はないだろ!」
「必要ない? 何を言っているのです、セルン。大切なお客様ですから、フェーリ様の魅力を最大限に引き出しなさいと、ドナルド様のお達しがあったのですよ」
「……くっ。ドナルド様、一体どこまでお嬢を利用するつもりだよ……」
モンナの返事を聞き、セルンは顔を真っ青にして、口ごもった。
よく聞き取れず、「なに?」と聞き返したが、セルンは不安げな表情を浮かべたまま、「なんでもないよ……」と言ってガックリと肩を落とした。
それから、行こうか、と促されて、セルンの手を取り2人で応接間へと向かう。
部屋の前につくと、セルンは木製の扉を叩こうと手を上げた。が、その動きは中途半端に止まった。
「ちっ、お嬢のこんな姿を見たらあの王子、はぁ……」
ため息混じりに何かを呟くと、セルンは再び大きく肩を落した。
鏡を見ないで出てきたからわからないのだけれど、そんなに変なのかな……?
会話用の紙を持ってこれないから重たい唇で訊いた。
「……変?」
「え⁈ いやいやいや、全然変じゃないよ!」
あたふたと首をふり、セルンが私の顔へ視線を定めた。それから周囲をチラ見すると、恐れた様子で私の頬に手をかけて、ばっと顔を染めた。
真っ直ぐに見つめてくるその瞳はなんだか照れているように見える。
「すごく、綺麗だよ。お嬢……」
セルンの手が熱いわ。もしかして熱を出したのかな、……ん?
気づけばセルンの顔がどんどんと近づいてきて、耳たぶに吐息が吹きかかる。
「……このまま拐っちゃいたいくらいだよ」
いつにも増して甘ったるいセルンの囁き声に、かっと頬が火照った。
な、なによ……。
珍しく化粧したからって私をからかうことないじゃない。もう……!
最近セルンの魅力にだいぶ耐性ができて、色気を帯びるその言動に一々反応しなくなった。それでも今のはさすがに反則だよ……!
甘い甘いセルンの笑顔を目にして、平然としていられなくなった、その時。パッと目の前の扉が開いた。
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