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「うん、そうだね。簡単にいうと彼は君に会いにきたのだよ。フェーリ」
「……私?」
さらに首を傾げれば、素敵な笑顔で社長はさらっと教えてくれた。
「うん。6年に及ぶ宗教戦争がやっと終焉を迎えてね、君を聖女と信じる宗教がテワダプドルの国教となったのさ」
なるほど。その聖女に会いにきたってことか……って、いやいやいや、待って!
その聖女って、私……⁇
聖女って、この間セルンも言ってたよね。
ふと8年前の記憶が蘇る。
──ストロング子爵家に拉致された謎の事件。
そういえば当主の口止め料を断ったら、聖女だとか言ってすごい泣きだしたわね……。
その息子の名前は……。そうだ、キーパーだ。
なにも関係ないのに連帯責任で共に追放されたんだよね。その前日にわざわざ屋敷に謝りにきてくれた。キーパーは確か宗教活動に熱心な人だっけ……。気の毒だよね……、って、ん?
宗教、追放、聖女……。え、まさか……!
はっと勢いよく頭をもたげて、社長をみた。
「……ストロング、子爵?」
その名前を口にすると、社長は驚いたようにその青い目を見開いた。が、すぐさまいつもの笑顔を浮かべて、
「さすが私の娘だ、フェーリ」
誇らしげに私を褒めると、慈愛に満ち溢れた表情で頭を撫でてくれた。
「うまく事を運べたら、これから始まる戦争の力になってくれる。だからねフェーリ、頼んだよ?」
戦争の力になってくれるならそれは一大事だ……って、戦争? なんの戦争⁇ これから始まるって、どういうこと……?
唐突すぎて唖然としていると、社長は撫でる手を止めて、再び歩を進めた。
「詳しい説明は後だ。あまり客人を待たせるのはよくないからね。さあ、行こう」
説明は後って、いや、先にしてよ、社長……。
いきなり一国の王が極秘に会いにきたって、このタイミングで言う、普通?
まだ動揺している私を優しく手招きして、ついてくるように促した。いつも思うけど、社長の仕草と言葉のズレが激しいよね……。
拒否権を与えられず、観念してドボドボとその後を追った。
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