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<通じて、よかった、です。この、手話、面白い、ですね>
つたない手話だが、なんとなく言いたいことが伝わった。
「子供のころ読んだおとぎ話を真似しただけです。聖女様にそう言ってもらえると、すごく嬉しい」
純粋な笑顔でイグは恥ずかしげに言った。
<ルセハン、と、ルテグレ>
小首をかしげながら、聖女は手話で名前を当ててきた。
私とイグしか知らないはずなのに、なぜ分かったのだ⁇
驚いて目を見開くと、イグは感嘆した様子で呟いた。
「聖女様、すごい……」
本当になぜ知っているのだ……。
聖女を怪訝そうに睨むと、<私も、読み、ました> と表情は変わらないのに、聖女はワクワクする身振りを見せた。
魔女に聴覚を奪われた兄妹の冒険を描く『ルセハンとルテグレ』。
イグと一緒に読んだこの本を真似して作った手話だが、2人でかなりアレンジを加えている。
同じ本を読んだだけでこの手話がわかるなど、納得できない。
<これは、おとぎ話、から、特定の、母音を略して、語順を、逆に、して、それで……>
淡々と難しいことを説明してきた。聖女は言語学に精通しているのか……?
唖然としていると、「フェーリネシア……」とイグは潤んだ目であの紛らわしい称号を囁き出した。
それで聖女は手の動きを止めて、小首を傾げる。
さすがにすべてを把握しているわけではないのか……。
少し安心した。
「その称号はやめなさい」
イグを咎めるようにそう言ったが、<ネシア?> と聖女は興味を示してきた。
「つまり救世主のことらしいです」
キラキラとイグの目が眩しい。
一方の聖女は顎に手を当てて、思い悩んでいる様子。
別に間違えたままでもいいのだが、やはり気になる。
「メシア、です……」
諦め気味で小さくそう呟くと、
「……イエス、キリ、スト?」
唐突に聖女の声が響いた。発音が微妙にズレたが、キリストって言った気がする。
イエス・キリストはこの世界に存在しない。それを聖女が知っているなら、もしかして……!
興奮して彼女の両肩をつかみ、揺すぶった。
「君は──!」
「ちょっと、何するのですか、ジョセフ様!」
気づけばイグに手を掴まれた。
断りもなく淑女に触れるのは礼儀違反。
分かっているのだが、高揚した気持ちを抑えきれず、イグの手を振り払おうとした、その時だった。
「どうしたんです?」
ドナルドの声に、はっと我に返る。わずかだが、書類を握るその手に力がこもった。これはやってしまった……っ
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