32. 早起きは三文の徳

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 いつもなら、朝6時にメルリンが起こしにきてくれる。その時寝室にいなければ、決まってセルンが探しにきてくれた。  でも今日はまだちょっと早い気がする。 「お嬢様、そろそろお支度の時間です」  時間? あ、もう6時……! いつのまに……。  はっとしたところ、ジョセフの声が聞こえてきた。 「時間がある時でいいので、また君と話がしたいです」  そう言って、計画書をテーブルに戻した。  あれだけ私を無視したのに、また話がしたいなんて……。もしかしたら、これは南の国といい関係を結ぶ契機かも……? <わかり、ました>  喜んで手話で了承した。これでドナルド社長にがっかりされずに済むわ!   浮かれつつセルンに次いで廊下に出た。 「……おはようございます、フェーリ様」  うっ、まさかの待ち伏せ……!  扉のすぐ横で、モンナがいた。四角い眼鏡の縁に手を添えて、背筋をピンと伸ばしている。  顔は笑顔だけれど、なぜかすごく怖い……。 「同じ服装で夜をお過ごしになられたようですね、フェーリ様。あれだけ、淑女の在り方を説明したのに、……まだまだ足りないようですね!」  すっ、と全身から血の気がひいた。    うかつにも、モンナが屋敷にいることを忘れてしまった……!   大変! と反射的にセルンの後ろに隠れた。が、その広い背中が離れていき、気づけばセルンはモンナの隣に立っていた。  あれ、なんで……?  ぽかんとセルンを仰ぎみると、観念しなさいと言わんばかりの顔をされた。 「毎回言っていますが、お嬢様。書斎は寝室ではありませんよ?」  相変わらず妖艶な笑顔だけれど、雰囲気は全然ちがう……!  いつも、お願いだから寝室で寝ようよ、とセルンは困った顔で言ってきた。まさか、あれは本気だったのか……!   この屋敷で、モンナにものが言えるのはセルンだけ。もう助からない。  もしかしたら夜まで説教されるかも知れない。いや、この様子だと明日まで続くかも……。恐怖で震えだすと、背後からジョセフの声がひびいた。 「応接の間で待っているので、支度を終えたら来てください」  そう言い残すと、ジョセフは長い廊下を通って客間のほうへと戻っていった。  あれ。ジョセフが、助けてくれた……?  呆然とその背後を眺めていたら、どん、とモンナに視界を遮られた。 「お客様が待っていらっしゃるのです、フェーリ様。時間がありません。お支度を整えながら、淑女のあり方を再度確認しましょう。さあ、行きますよ。背筋、まっすぐです」  うぅ、怒る気満々なのね……。  そうして、きつくコルセットを締め上げられながら、モンナの厳しい説教を聞いたのである。
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