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いつもなら、朝6時にメルリンが起こしにきてくれる。その時寝室にいなければ、決まってセルンが探しにきてくれた。
でも今日はまだちょっと早い気がする。
「お嬢様、そろそろお支度の時間です」
時間? あ、もう6時……! いつのまに……。
はっとしたところ、ジョセフの声が聞こえてきた。
「時間がある時でいいので、また君と話がしたいです」
そう言って、計画書をテーブルに戻した。
あれだけ私を無視したのに、また話がしたいなんて……。もしかしたら、これは南の国といい関係を結ぶ契機かも……?
<わかり、ました>
喜んで手話で了承した。これでドナルド社長にがっかりされずに済むわ!
浮かれつつセルンに次いで廊下に出た。
「……おはようございます、フェーリ様」
うっ、まさかの待ち伏せ……!
扉のすぐ横で、モンナがいた。四角い眼鏡の縁に手を添えて、背筋をピンと伸ばしている。
顔は笑顔だけれど、なぜかすごく怖い……。
「同じ服装で夜をお過ごしになられたようですね、フェーリ様。あれだけ、淑女の在り方を説明したのに、……まだまだ足りないようですね!」
すっ、と全身から血の気がひいた。
うかつにも、モンナが屋敷にいることを忘れてしまった……!
大変! と反射的にセルンの後ろに隠れた。が、その広い背中が離れていき、気づけばセルンはモンナの隣に立っていた。
あれ、なんで……?
ぽかんとセルンを仰ぎみると、観念しなさいと言わんばかりの顔をされた。
「毎回言っていますが、お嬢様。書斎は寝室ではありませんよ?」
相変わらず妖艶な笑顔だけれど、雰囲気は全然ちがう……!
いつも、お願いだから寝室で寝ようよ、とセルンは困った顔で言ってきた。まさか、あれは本気だったのか……!
この屋敷で、モンナにものが言えるのはセルンだけ。もう助からない。
もしかしたら夜まで説教されるかも知れない。いや、この様子だと明日まで続くかも……。恐怖で震えだすと、背後からジョセフの声がひびいた。
「応接の間で待っているので、支度を終えたら来てください」
そう言い残すと、ジョセフは長い廊下を通って客間のほうへと戻っていった。
あれ。ジョセフが、助けてくれた……?
呆然とその背後を眺めていたら、どん、とモンナに視界を遮られた。
「お客様が待っていらっしゃるのです、フェーリ様。時間がありません。お支度を整えながら、淑女のあり方を再度確認しましょう。さあ、行きますよ。背筋、まっすぐです」
うぅ、怒る気満々なのね……。
そうして、きつくコルセットを締め上げられながら、モンナの厳しい説教を聞いたのである。
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