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本格的に反乱が起こるまで、西の目を欺くためにも、王国は通常どおり食糧を輸出しなければならない。
それゆえ、反乱軍と援軍に備える食糧を国外から内密に調達する必要がある。そして短期間で大量の食糧を用意できる国といえば、それは王国に劣らない生産量を誇る南の国だけだ。
とはいえ、条約の制約で王国と南の国は外交を結んでいない。それでかなり前から、ドナルド卿と共に南の国を味方につける方法を模索してきたのだ。
ちょうど内戦が収まったばかりで、南の経済は困窮している。そこに目をつけて、援助という形で話を持ちかけようとしたのだ。が、先月の正式調査報告で、図らずも……、とドナルド卿が強調したのだが、新たに南の国教となった宗教はフェーリを聖女と拝んでいることを知った。
地理的に、南の国は西の国に近い。
そんな国とコンラッド家が友好的な関係を結べば、もしや秘密裏に食糧を販売してくれるだけでなく、運搬もしてくれるのではと睨んだ。
しかし予想とは裏腹に、次期国王であるジョセフは愚直にフェーリを忌避する。
結局、王国がみずから食糧の運搬を行うしかない。その分の出費が勿体無いと、ドナルド卿は嘆息しているのであろう。
いいあんばいにドナルド卿が困っている。
これはよい機会だ。逃すわけにはいくまい。
口惜しそうに紅茶を啜るドナルド卿をちらりとみて、声をかけた。
「せっかく、次期国王がまだ屋敷に滞在しているのだ、ドナルド卿。ここで諦めるのは時期尚早であろう」
「……おや? もしかして、考えがあるのですか?」
「ふむ」
「これはこれは。ぜひ聞かせてください」
「……その前に、一つだけ条件がある」
なるべく落ち着いた声でそう切り出すと、
「条件、ですか? ……ええ。何なりと言ってください」
ドナルド卿は紅茶をテーブルに置いて、にっこり笑った。
余を観察する鋭い眼差しとちがって、その温厚な笑顔からいっさい負の感情を汲みとれない。
深呼吸ひとつしてから、慎重な口調で言った。
「では単刀直入に言おう。ドナルド卿。余は休憩を所望する」
「……休憩、ですか?」
「ふむ。10日でよい。公務から離れる時間が欲しい」
その間の公務が滞ってしまう、かなり無茶のある条件だ。
ドナルド卿の表情に目を光らせて、返事を待った。
万が一却下されたら、期間を半分に減らして再度交渉するつもりだ。
「ええ。そうですね。もしジョセフ様が食糧の運搬を引き受けてくれるのであれば、お望み通り休日を差し上げましょう」
ややあって、余裕のある口調でドナルド卿はそう約束してくれた。それから紅茶をつまみ上げて、
「キウス君が西にいる間の時間をどうぞ効率よく使ってください」
相変わらず紳士的な口調でそう加えると、ドナルド卿は小さく笑った。
時を同じにして、(ニロ様もまだまだ子供だね) と余を茶化すその瞳から本音が伝わった。
不満げに眉根を寄せると、ドナルド卿は気づかないふりして、ゆっくりと紅茶を満喫する。
反論してもさしずめ意味はないな。咳払い一つしてから、声を発した。
「さて、ジョセフ殿を承諾させる方法なのだが……」
不本意に熱を帯びてきた頬で、淡々と策を説明し始めたのである。
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