37. 告解

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『もう泣くな、イグ!』  お父様の厳しい声が響いたのは、ジョセフ様の回復を待って、一人で悲しみに暮れる時でした。 『ジョセフはいずれ王になる人だ。これからも命を狙われ続けるだろう。彼の傍に居たいなら強くなれ!』  本当の兄ではなくても、私は優しいジョセフ様が大好きです。そんな彼を自分の手で守りたい。あの日固くそう決意しました。  奇跡的に昏睡から目を覚ましたジョセフ様は、『怖い思いをさせてすみません』と私を心配してくれました。頬に歓喜の涙を流しつつ、私はジョセフ様に宣言しました。 『これから私がジョセフ様を守ります! もう泣きません!』と。  それからお父様の許可をもらい、剣の才能がまったくないジョセフ様のためにひたすら剣を振るいました。  もし王になれたら誰もが幸せに暮らせる国を作りたいと、ジョセフ様は私にだけ言いました。戦争は苦しみの種。戦争から生まれるのは名誉でも幸福でもない、難民と孤児だけですと、ジョセフ様はいつも言いました。  そうして六年前、戦争準備に入ったストロング一家を助長する者を調べて欲しいと頼まれて、真実を知った時、私は隠蔽することなくジョセフ様に報告するつもりでした。それなのに、いざジョセフ様を前にすると、私の中に迷いが生まれてしまいました。  ジョセフ様の安否を憂苦するお父様の行為と知り、王位継承権を放棄しても、ジョセフ様が息をしなくなるまで、公爵家の貴族達は彼を平穏に暮らさせる気はありません。  そのままお父様の計画が成功すれば、公爵家は失脚して権力を失います。お父様の策は、ジョセフ様の身と心を両方救える唯一の方法でした。ジョセフ様が苦い思いをすることなく、王になれます。  私はその甘い誘惑に、負けてしまいました。  結局ジョセフ様に本当のことを伝えることができず、胸を掻きむしられるような思いに襲われながら、辛い日々を過ごしました。ジョセフ様を騙さなければならない理由を作ったお父様の(はかりごと)も、聖女教も、皆大嫌いになりました。  聖女教がいなければいいのにと、私は密かに思うようになりました。しかし心の奥底で、私は知っていました。自分の醜い感情から眼を背けて、聖女教に全ての責任を押し付けようとしましたこと。  私は、ジョセフ様を王とする国に暮らしたい。  優しいジョセフ様が導いてくれる、誰もが苦しまない、幸せな国に、私は暮らしたいのです。何も知らないふりして、すべて聖女教のせいにしようとしたのは、ただのわがままでしかありません。  それでも、コンラッド家を誤解するジョセフ様に事情を説明するつもりはありませんでした。もし真相を知ったら、ジョセフ様は自分自身を責めてしまいます。王にならないと言い出すのかも知れません。ですから、私は彼を騙し続けるしかありません……。  そうして不安と自責の念に駆られて、押しつぶされそうになった私の前に、キーパー・ストロングが現れました。  ──全ての罪を許す救いの手  醜い心を持つ私でも、聖女様は許してくれます。キーパーはそう言ってくれました。  それからというもの、私の心はとても楽になりました。    ジョセフ様の傍にいても、自然と笑顔を浮かべることができました。そうして真実が露呈することなく、宗教戦争は終焉を迎えました。これで丸く収まりましたと、私は安心しました。  コンラッド侯爵家からお手紙が届きましたのは、ちょうどその時でした。  六年間も潜めていた経緯をジョセフ様に知られてしまいますと、心配で仕方ありませんでした。それでもお父様の指示に従い、私はジョセフ様を説得して彼と二人で王国に赴きました。ただ一つの楽しみと言いますと、それは聖女様とお会いすることです。  フェーリ様は本当に聖女ですと、私は盲目的に信じたい。そうでなければ、私はもうジョセフ様の傍で平然としていられなくなりますから。 
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