39. はじめての交渉

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 この2で私がに上げた利益の半分。  一見充分すぎる大金のように聞こえるが、2年という制約がついているので、はっきりいうとこれは一度きりの資金になる。  しかも私が多めに上げた利益の半分なので、コンラッド家の資産からすれば小銭のうちにも入らない。  このお金で孤児院を作ったとしてもその後の運営はできない。せっかく有利な立場に立っているのに、これだと安すぎる。 「なにを迷っているんだい、フェーリ? 孤児院をたいんじゃないのかい?」  戸惑っていると、社長は落ち着いた雰囲気で私に問いかけた。  うっ、そういうことか。  やってしまったわ。作りたいなんていうべきではなかった。  いまさら作るだけじゃなくて運営もしたい! なんて、言ってもダメだよね……。 「フェーリ、君は継続的に運営する予算も欲しいのかい?」  突然社長にそう聞かれ、思わずぎくりとする。  どうやらすべてお見通しのようだね。でもどういうつもりで聞いているの……?  『運営する予算も欲しいのかい?』   <も> ってなに……なにを狙っているの?  「違うのかい?」  全神経を集中させていると、社長は余裕のある笑顔でやんわりと急かした。  考える時間をくれないのね。  欲しいですと言っても普通にくれるとは到底思えない。  社長はなにか打算があるようだけど、ここは違うとも言えない。どうしよう、このまま黙っていたらどんどん不利になってしまう。  仕方なく拳を握り、こっくりと首を縦に振った。 「うん、そうか。なら君の努力に見合った報酬としてある程度の予算をあげてもいいよ?」  予想と反して社長は快く承諾してくれた。  えっ、待って、本当にくれるの?!  <自由に使える予算を定期的にくれるのですか?>  慎重にそう確認すると、社長は満足げな表情を浮かべた。 「うん、そうだね。月に一度はどうだい?」  ……毎月予算をくれるの?  いくらかはまだわからないけれど、少なくとも孤児院を運営できるくらいのお金はくれるってことだよね?   しかも自由に使っていい予算だから、やりくり次第で医療や教育の方にも手を出せる。うそ……こんなにも簡単にくれるの?   いままで考えたことなかったけれど、一応娘だし、意外と素直にお願いすれば聞いてくれるのかもしれない。  驚きながらもこの機会を逃すまいと2回ほど首を縦に振って了承した。  そして舞い上がって <ありがとうございます> と紙に書きかけた時。 「もちろん条件はあるけどね」  社長は完璧すぎる笑顔で恐ろしい言葉を口にした。  私の努力に見合った報酬って言ったのに、条件をつけるの? 可笑しくない……? <どんな条件ですか>  平然を装いとりあえず聞いてみる。 「教えたら絶対に呑んでくれるかい?」  えっ、呑む前提なの! なにそれ、不公平すぎじゃない?  しばらく棒立ちになっていると、社長は私の頭に手を伸ばしてきた。 「大丈夫。答えは即位式の後でもいいさ」  清々しい笑顔でさらっとすごいことを言ったよ、この人……。  答えは即位式の後でもいい? いや、全然よくないよ、社長。  なんで参加する前提になっているの……? 『運営する予算も欲しいのかい?』   ──あ! しくじってしまった!  この <も> はそういう意味だったの……。  <孤児院を作る> という私のお願いは運営資金欲しいと頷いた時点で聞き入れられたに等しい。 『その願いを聞いたら、参加してくれるね?』  最初から社長の掌に踊らされていたんだ……。  ここまできたらもう私の参加は確定事項で、運営資金の条件を呑むか呑まないかは関係ない。  そもそもそれは一度きりの資金で了承させるための罠にすぎなかったんだ。  うっ、まんまと社長に騙された。素直にお願いすれば聞いてくれると思ったのに、やはり甘かったか……。
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