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40. 悩み相談
島国である南の国へ行くのに、まずは馬車で港まで向かい、そこから船に乗り換える必要がある。
片道およそ三日ほどの移動時間をなるべく短縮させようと、早朝から超特急で港についた私たちは、街で休むことなくそのまま南へ向けて出航した。
「急ぎ足になってしまってすみません、皆さん疲れていませんか?」
船内で食後のコーヒーを啜りながらジョセフが口を開いた。
「ふむ。馬車の中でしかと目を休ませた故、心配には及ばない」
上機嫌でニロは答える。
「謹んで申し上げますが、ニロ様。ジョセフ様が心配しているのは恐らく馬車で寄りかかられたお嬢様の方かと」
隣からセルンが笑顔でそう口を挟めば、
「ふむ。それも心配無用だ、セルン。余は仮眠しているだけでフェーリに一切体重をかけていないのだ」
そう言ってニロは誇らしげに腕を組んだ。
ニロはもう気にしないみたいだけれど、その言い方は失礼だよ、セルンさん。
「なるほど素晴らしいお心遣いですね、ニロ様」
なんだろう? セルンはニッコリしているけど、なんだか嫌味っぽく聞こえる……。気のせい?
「ふーん。普段と変わらないのに何故か引っかかるな……」
「……え?」
「うーん。余はどうも其方の態度に妙な違和感を覚えるのだ。セルン。これは何故だ……」
顎に手を当てて、ニロは体を左右に揺らしながらなにやら考える素振りを見せた。
ニロがこうして元気そうにしているの、久しぶりにみたわ。いつも公務で疲れているからね。やはり旅はいいわ。
「違和感……でしょうか? 特に変わったことを言っていませんが……」
不可解な面持ちで悩むニロをしばらく見つめて、セルンはもう我慢できない様子をみせた。
「……それはさておき。まずは仮眠のことですが、ニロ様。今後はご自分に不必要な負荷をかけないで壁の方に寄りかかってお休みになったらいかがでしょう?」
「其方はいつも異なことをいうな、セルン。フェーリと触れ合うための負荷は不必要なはずがなかろう?」
眉をよせて、ニロはいかにも当然であるかのように返した。
うっ、この流れだとせっかくのいい旅がまた険悪な雰囲気になりそうだ。
いつものことだけど、セルンは私の話になるとついつい過保護になってしまうんだよね……。
「お言葉ですがニロ様。お嬢様にはキウスという立派な婚約者がいます。一国の王子とはいえ──」
「──王子! そうだ。セルン。それが違和感の正体だ」
「……え?」
「其方は忘れているようだが、いまの余は王子ではなく、フェーリの護衛として同行しているのだ。同じ護衛である其方が余に敬語を使うのは矛盾するであろう?」
「ああ。確かに矛盾しますね」
と向かい席にいるジョセフはうんうんと頷いた。
「いいえ。忘れているわけではないのですが、いまはもっと大事なお話が……」
「いいか。セルン。王国に戻るまで余は其方の同僚だ。忘れたわけではなければいまはもうその敬語はやめたまえ」
そう念を押すとニロはジョセフの方に視線を移す。
「ジョセフ殿下も余のことはニロでよい」
「わかりました。ではしばらくそう呼ばせてもらいます」
「ふむ。それと急なことで騎士らしい服装を調達できなかったが、テワダプドルで手に入りそうか?」
「ああ。そのことなら問題ないです。明日の朝着陸したらすぐに用意させましょう」
「そうか。すまない。感謝する」
「いいえ。それとその後の予定ですが…ー」
まだなにかを言いたげなセルンをそっちのけで二人はそのまま別の話題に移った。
あれ? 嫌な雰囲気になってない。……なんだろう。セルンに対するニロの態度が柔らかくなってる?
いまのニロは王子ではないから? ……あ、これだわ!
王子と従者ではないいまの立場ならきっと二人は仲良くなれるはず……!
<心配してくれてありがとう、セルン。でも本当に重くなかったよ>
「いや、問題はそこじゃないんだよ……お嬢」
はあ、とセルンがため息をこぼした。
ん? 重さじゃないなら問題は肩こりかな……?
ニロに寄りかかられて特に辛いと思ってないのだけれど……どうすればセルンにもわかってもらえるのだろう?
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