40. 悩み相談

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********【セルン・ガールド】 「……お嬢?」  寝てしまった……?   ククッ、お嬢の寝顔……。いつみてもかわいいな、って、 「──ちがうっ‼︎」  あ、やばい。大声を出してしまった。せっかくお嬢が寝たのに……! 「……お嬢?」 「…………」  まったく反応がない。これは本気で寝てるな。  ったくもう……。一応オレも男だよ? 二人きりの部屋ですやすやと寝るなんて、無防備すぎる! 明日はちゃんと怒らないとな……。あでもお嬢はオレのいうことをあんま聞かないんだよな……。  しょうがねぇ。帰ったらモンナさんにまた言うか。  ため息をついて、お嬢を流しみる。 「うっ……」  ん? 寝言をいってんのか? 「……くっ」  ぴくりとオレのシャツを握りこんで、お嬢がうなった。  苦しそうだな。また悪い夢を見てんのか? 「大丈夫だよ、お嬢。オレがずっと、ず〜っと傍にいるから、夢なんか怖くないよ」  優しく頭を撫でてそう囁いたら、ふぅ、とオレの胸に頬をすり寄せて、お嬢は深く眠った。  密着する肌から、脈打つお嬢の鈍い鼓動がつぶさに伝わってくる。  同じ生き物とは思えないくらい、儚くて尊い。  ああもう、このまま掻っ攫って、人目のつかないところに隠してしまいたいぜ……。  おのれの欲動を抑圧するかのごとき、お嬢の黒髪に長めの口付けを落としていれば、「むぅ……」となにやらお嬢がまた寝言を言いだした。  またうなされてんのか? 苦しんでいるように見えないんだがな……。  見守るようにお嬢の顔を覗き込んでいれば、ややあって薔薇色の唇からうわ言がこぼれ出た。 「……あ、まい……」  ……あまい? どんな夢を見てんだ?  「の、……け」  のけ……? なんだ。気になるな。  お嬢の寝言に耳をそばだてていれば、数分もたたないうちに再びか細い声が響いた。 「……あ、まい……」  うん。あまいのわかってるよ。それ以外は? 「……せ」  せ? 「……るぅ」 「!」  いまのは、オレの名前……? 「お嬢……?」  待て、いまのはオレの名前だったよな? なんだ。オレの夢を見てんのか……? 「…………っ」  あ、やばい。これはやばい……。胸の動悸が収まらねぇ……!  ずるい、ずるいよお嬢。この状況でオレの名を呼ぶなんて……。  ドクンドクンと息が乱れはじめ、お嬢の唇に視線が吸い込まれてゆく。  オレの名を呼んだ唇。すごく、柔らかそう……。  引き寄せられるように顔が近づいていき、唇にお嬢の息が吹きかかり、はっと固まる。  あ、危ねぇ……!  なに自然とお嬢を押し倒そうとしてんだ、オレ。  だめ、ダメダメだめダメっ!   こんなことしたらお嬢の傍にいられなくなってしまう……!  ぐっと堪えて、身を引く。  肩で息をしながら脳内でひたすらケーキのレシピを考えたが、火照った身体の熱はなかなか冷めてくれない。  んっ……、はぁ、やばい。すごく、キスしたい。  この小さな唇をむさぼって、めちゃくちゃにしたい…っ 3bf05fc0-c5d2-4b61-82af-916f51f07d5a  くっ、ダメだ。しっかりしろ、オレ!  プルプルと頭をふって、自分の頬を叩く。  オレはずっとお嬢の傍にいたい。ここで欲望に負けてたまるか。  なにがあっても、この衝動を抑え込んでみせる。  深呼吸。そうだ深呼吸だ……!  ひーひーふー  ……このくらい大丈夫!  ひーひーふー  オレはできるっ!  ひーひーふー  がんばれオレ……!  ひーひーふー  ……ぐっ。  ひーひーふー……  …… ーー……  … ーー…    はあ……。やっと少し落ち着いてきた。  うん。えらい。  これに耐えられるオレえらいぞ。だってニロ様なら絶対に無理だったから……って呑気に言ってる場合じゃねぇ! しっかりお嬢を注意しないと婚約が解消される前に大変なことになってしまう。  まじでそうなればキウスも黙っちゃいないだろう。  八年前お嬢を攫ったストロング子爵の屋敷をボロボロにしたあいつだからな…… 。  いつもぼけっとしているくせに、いざ怒ると暴走してしまう厄介なやつだぜ。まったく。  万が一にも結婚する前にニロ様がお嬢に手を出して、それをキウスが知ったら……うっ、考えるだけで頭が痛い。  なんだこれ。なんでオレが頭を悩ましてんだ。他人のことなのに……!   はあ、オレはただお嬢の隣にいたいだけなのに、とんだ拷問だよ、こんなの……。  がっくりと肩を落として、腕のなかのお嬢へ視線を落とす。長い睫毛は時おり微動して、愛らしい寝息が聞こえる。その口角は少しだけ上がって、微笑んでいるように見えた。  いい夢を見てんのかい。お嬢?  「……ふぅ」  気持ちよさそうだな。まだオレの夢を見てんのかな……? 「むぅ……」  ああ、やっぱかわいいなもう……。 「……お嬢が誰と結婚しても、オレだけはずっと傍にいるよ」  甘くそう囁いてから、再びしっかりとお嬢の頭に唇を重ねて、幸せな一時を噛みしめたのだ。 16678230-2cf8-42ab-a6af-806beae6c87f
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