【南の国編】 41. 影絵芝居

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 天候に恵まれ想定より早く南の国に着陸することができた。  しかしどうやら即位式の前に聖女である私の到着を知られると大変な人集りになるらしい。それでとりあえず港湾都市の近くにある小さな島で待機することになった。  クニヒト宰相が所有するこの島は原則として一般人の立ち入りを禁じている。  そのため海岸から遠く離れた(ふもと)にぽつんと立っている屋敷の周囲には緑しかなく、閑寂としている。  屋敷に着いて早々、ジョセフとイグは色々と準備があるとのことで、そのまま部屋を空けた。  二人とも休む間もないのね。私たち三人だけ暇しているのはなんだか申し訳ないわ。  そうして昼食をとりソファでくつろいでいると、地図を手にしてニロが口を開いた。 「ふうん。王都までまだかなり距離があるな」 「あでも意外と道はきれいだから、一日で行けるよ?」  くだけた口調でセルンがそう答えた。 「ふむ。そうか。そういえば其方は一度きたことがあるか」 「うん。あの時からこの島が気になってたんだよなー」 「ふうん」  なんだろう。ニロとセルンが普通に会話してる。これは新鮮……!  一応世界地図を覚えているが、会話に混ぜてほしくてついキョロキョロしていると。 「ん? 地図が気になるかい、お嬢?」  目の前にいるセルンとばっちり目があった。こっくり頷くと、ニロがテーブルに地図を置いてくれた。 9e89ec4e-5316-4f07-9f51-f0c6ce4c60ae  えっと……着陸した港は確か東南の……。 「ふむ。こことここだ。フェーリ」  そう言うとニロは王都と島を指差してくれた。 0615ac69-96f1-413c-991a-36e86378498c (ありがとう、ニロ)  瞳で礼を言うと、セルンにもわかるように用紙を取り出す。 <確かにかなり遠いね> 「ふむ。セルンの場合と異なり、我々は再び船に乗る必要がある故、二日程かかるかもな」 「まあそうだけどさ。即位式まであと五日もあるし、のんびり行こうぜ」  そう言うとセルンは「ふぁあ〜」とあくびをしてソファにもたれかかった。  昨日相談に乗ってくれたセルンはだいぶ疲れている様子で、朝からずっとあくびをしていた。セルンの腕の中でうっかり寝てしまったが、起きたら自分のベッドに入っていた。いつも通り彼が入れてくれたのだろう。  すごい迷惑をかけてしまったわ……それで寝不足になっているのかな?
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