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プロローグ
*******【フェーリ・コンラッド】
「余の顔に文句があるのか? コソコソと言うのではなく、堂々と言ってはどうだ?」
顔に激しい怒りを浮かべて、男の子は私の前にやってきた。
9歳くらいに見えるこの子は、間違いなく将来国王の座を約束された、『ニロ・ブルック・ジュリアス』王子だ。
私は前世、事故で28歳と短い生涯を閉じた。
この世界に転生してからすでに8年が経過し、本日はじめて宴会に参加した。国王主催の演奏会だから、不安と期待でソワソワしていたのだ。
そんな私の身に降りかかる悪夢のごとく、怒り心頭に発した王子は嵐のように現れた。
「お前のその顔が気に食わない」
そう言われ、クイッと顎を引きよせられた。
目の前にいる王子は愛らしい端麗な顔をゆがめ、とてつもなく不機嫌なご様子。
な、何がそんなに嫌なの……。
アワアワしていたら、ふと目があった。
不満の色を帯びた王子の瞳は潤みをまとい、濡れた月のようにみえる。
って、みえるじゃなくて、あれ、目が、銀色……⁇
光の反射で美しい輝きを放つその銀色の瞳は、それはそれは人を魅了するものだ。
不思議な色ね……って、顔が近い……っ!
ふんわりと頬に温い吐息が伝わり、はっと気づく。
いつの間にか2人の鼻先が触れそうになり、思わず息をのんだ。
唐突の出来事に思いっきり目を見開いて驚きたいところだが、訳あって私は思い通りに表情を動かせないのだ。
それで傍目からは平然としているように見えるだろうけど──全然そんなことないからっ!
なにより、王子とほぼ同い年に見えるが、私は彼と違って28年分の記憶を持っている。ニロ王子はいずれ国王になる人だ。なのでどんなことをしても許されるだろう。
それでも初対面の人に『顔が気に食わない』って何?
じわじわと胸に怒りがわき起こってきた。
──むっ、本当に失礼な子だわ!
内心で不満をもらした私は、まさかこの小さな王子が特別な存在になってくれるとは、夢にも思わなかったのである。
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