《ウラとオモテ》後編

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助けたい一心で、軋む身体を引きずって、何も考えず飛びだしていた… 『っ弟が、弟が重傷なんだ!助け…病院までっ頼むからっ連れて行ってくれっ』 必死に運転手に訴えた… けれど… 『…う、うるさいっ…はなさんかっどうなろうと知ったことかっ!』 帰って来たのは冷たい言葉… 『なっ、』 『まずいことになった…こんなことで警察の世話になるわけにはいかん』 『待っ、頼むからッ弟を助け…っ』 『っ離せッ!証拠は残せんっ!』 男はそれだけ言い残すと、車を急発進させ、その場から逃げ出してしまった。 『っ…くそっ!くそッ!!』 悔しさ無力さが押し寄せて来て… そのとき、微かに声が… 『ナツ…』 弟の意識が… 『っ!冬輝?、冬輝…い、痛いよな、出してやりたい、けどっ…ごめん、おれの力じゃ…びくとも、しない…』 力をふりしぼるが挟まった身体は動かない…悔しいっ苦しむ弟を助け出せない自分が… 『……だい…じょうぶ、』 か細く息つく弟… 生気の失われていくカオ… 『呼んでくるから、おれが助けを、だから、それまで待ってて、冬輝…』 声は震えて…頼むから、待っててほしい… 『…夏ちゃん…ありがとう…』 頷いて…ようやく発した言葉… 弟の…それが最期の……。 雨が降る山道を下った… 負傷した身体で必死に…助けを呼ぶために… 弟が病院に運ばれたのは…事故から2時間以上が経っていた… その時にはすでに、手遅れだった… あと一時間でも早く運ばれていれば… 医者のコトバが、胸をえぐるように痛かった… 助けられたかもしれない命… あの時の、あの運転手が… 事故を起こして、弟の命を奪った奴、それなのに未だ捕まらず、謝罪することなく生きている… それが憎くて、どうしょうもない感情に苦しめられて… いつも居た…その存在がいない… そのことは…本当にツラくて… 奪われたものは大きかったから… おれは…あの男が警察に捕まってほしいとか、そんな単純なことじゃなくて… ただ、弟に謝ってほしかった、弟の人生を奪ったことも…あの時助けなかったことも、この苦しみを伝えて…深く反省して、心から謝ってほしかった…。
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