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「フユ、」
困ったようにナギは呟く…
それに、おれは弟の命を奪ったアイツを許すことができない…
「…おれはアイツを許せない、おれを自由にしたら警察連れてくる、アイツを裁かせる!」
強く伝えた意志だが…
「……」
ナギはしばらく無言になり…
息をついて話し出す…。
「フユ…それをしたら、俺たちも捕まるってことを分かってるか?」
「なんで!?捕まるのはアイツだけでいい、事故を起こしたのは、アイツなんだから!」
まっすぐ言い返すフユだが…
「言ってなかったけどな、この会社、法に触れた営業してるんだ、トップが捕まれば、ここのこともバレて、そこで働く俺たちは捕まる…」
未成年者はまだしも…
「そんなわけ…」
「あるんだよ、俺たちは働く場所も住む場所もなくなる」
「……」
「俺なんかは、ここを出てもやっていけるだろうけど、他の奴は違う、ルキやサキなんかは精神病院に逆戻りだろうし、レンだって、ここじゃフツーにシゴトこなしてるけど外に出れば重度の聴覚障害者扱いだ…」
「……ぅ、」
「トップを捕まえれば…この会社を潰せば…それは俺たち全員を裏切ることなんだ…」
「っけど、」
弟のために…アイツをつかまえなきゃ…
こんなチャンス二度とないのに…
「たしかに、トップは人間性を疑うようなコト、平気でやってのける…それは、みんな心の中では疑問に思ってる、けどな、俺達全員ここで生きていくためには…トップには逆らえない…」
「そん、な…」
「正直、俺はお前を連れてきちまったコト後悔してる…」
俺たちみたいに社会的にハンディがあるわけじゃないのに…
巻き込んで、この抜けることのできない鎖の中に呼び込んでしまったから…
「っ…」
後悔?
フユはナギの言葉に、思った以上に…ショックを受けて…
同時に、なんとも言えない悲しい気持ちになる…
記憶を無くしていた間は、その日帰る場所もなくて…
一日がとてつもなく長く感じていた…
自分の存在理由もあやふやで…
その日暮し…
ナギに助けてもらって、普通の生活ができることのありがたさを身に染みて感じることができたのに…
後悔…だなんて、そんなこと…
「後悔…なんていうなっ!」
「…フユ、」
「おれ、あのままだったら死んでた…弟のコトも思い出せずに…体より先に心が…」
死んでた…
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