第2話 愚弄人の日常

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ファルは、弓を扱うハンターである。 ユーリとさほど背丈は変わらないが、非力な彼女は通常の弓を引くことが出来ない。なので、魔術で作り上げた特製の弓を用いていた。 自己流の魔術は、100メルトル程離れた動く獲物を確実に射貫き、即死させることができるほどの恩恵を彼女に与えている。 この魔術、使用する魔力は極めて少ないため、それらを察知できる敵にも気づかれにくいという利点を備えていた。 魔王討伐隊の時は『鷹の目』と呼ばれるほど高い命中率を誇り、遠距離からの支援や牽制に非常に長けている。 イアとユーリが道を切り開き、ミクとファルが後方支援をし、カイリが奇襲をしかける。 それが必勝パターンだ。 それにしても、やれやれとユーリは首を振る。 このパーティの中で、ユーリは万能である。 道をこじ開ける前衛もできるし、そこで撃ち漏らした敵を片付ける中衛も、魔術などを使用した後衛もできる。 しかし万能であるだけで、スペシャリストではない。 力を前面に押し出した戦士であるイアには勝てず、攻撃も治癒もこなせるミクには魔術で敵わず、暗殺スキルではカイリには及ばず、弓ではファルに歯が立たない。 もちろん、苦手な攻め方をすれば勝てるのだが、それぞれに特化した技術を持っているものに、真っ向勝負を挑むと必ず負ける。 万能であるがために万能ではない勇者。専門家の中に放り込めば途端に無力になる苦労人。そこから蔑称の『愚弄人』がつけられた。
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