~気付いたキモチ~

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事務員のキモチに、気付いたのはちょっとしたきっかけだった。 所内で、ボーリング大会を開いたとき。 男女合わせて10人しかいないから、アミダくじで男女のペア決めをしたのだ。 オレは、「A男」だった。そして、事務員は「A女」だった。 ちなみに、事務員の名前は谷ヶ崎紫都(ヤガサキシズ)さん。 あとで、聞いたら女子みんなで裏工作をしたらしい。 谷ヶ崎さんは、オレより年下でたまにおっちょこちょいなことをする事務員。 所内イチ?がんばり屋で所長が良くほめている。 ボーリング大会の帰り、みんなでスタバでお茶して帰ったんだけど、たまたまに帰り道が一緒になったのが谷ヶ崎さんと同じ市内に住む荒川元(アラカワハジメ)だった。 オレの車に荒川と谷ヶ崎さんが乗った。 「荒川!ちょっと良いか?」 車を出そうとしたとき、マネージャーの篠原大樹(シノハラダイキ)さんが荒川を車から降ろした。 「ごめん!ゆうちゃん、コイツ明日の現場の準備なんもしてないって言うから、今から事務所いってやらせるから。谷ヶ崎さんを送ってってあげてよ?」 「あ、はい。わかりました。」 マネージャーの話しに頷き、オレは谷ヶ崎さんを送って行くことにした。 後部座席でおとなしくしている谷ヶ崎さんに、オレは何を話したら良いのか悩んでいた。 「あ、あの…コンビニに寄ってもらえますか?」 「ローソンで良い?」 「あ、はい。お願いします。」 オレは、近くのローソンの駐車場に車を向けた。 谷ヶ崎さんが車から降り、店内へと向かった。 オレは、明日の現場ってと考えていた。 そして、気付いた。 明日の現場の準備ってなんもないって。 明日の朝、出勤してからでも間に合うってことに。 そして、谷ヶ崎さんがオレを好きだってことも。 ただ事務所全員が谷ヶ崎さんを応援しているとは、気付かなかった。 やがて、谷ヶ崎さんが戻って来た。 オレは車から降り、助手席のドアを開けた。 「荒川いないから、こっちに座ったら?」 「え、良いんですか?」 「どうぞ、助手席に乗せるって言ったら 両親か荒川か篠原さんくらいしか居ないから。」 「ありがとうございます。おじゃまします。」 谷ヶ崎さんがゆっくりと助手席に入っていった。 オレが運転席に座ると、谷ヶ崎さんがカフェオレを手渡してくれた。 「送ってもらうお礼です。」 「別に良いのに。でも、いただきます。」 オレは、カフェオレを受け取った。 受け取ったと同時だったかわからないけど、谷ヶ崎さんがオレに抱きついて来た。 「え?」 オレがびっくりしていると、谷ヶ崎さんが慌てて離れた。 「ご、ごめんなさい。」 「いや、大丈夫だけど。まさか、知り合いが居たとか?」 「あ、はい。似ている人が居たので。」 「そうなんだ。まさか、婚約者とか?」 オレは、冗談のつもりでそう言った。 「はい。婚約者の父親に似た人が居たので。」 「そうなんだって婚約者?」 オレは、びっくりして谷ヶ崎さんを見た。 「自分、半年後に結婚する予定です。」 「そうなんだ。」 「今は、地元を離れて、婚約者の会社から車で30分位のとこに、アパートを借りて1人で住んでいます。そのアパートから自転車で15分位の会社を探してココに入社しました。」 オレは、そうなんだ。としか言えなかった。 「ごめんなさい。結城さんを驚かせてしまって。」 「いや、大丈夫だよ。婚約者さんは、毎週末、アパートへ来るの?」 「いいえ。式場の打ち合わせがある日だけきます。それ以外は、仕事なんです。だから、自分もその日は仕事に来ています。」 「そっかぁ。じゃあ、土曜日とか暇だったらご飯、行こうよ?って婚約者がいるからダメかな?」 「全然大丈夫です。この辺り、全然知らないのでお願いします。」 「了解。じゃあ、メアド交換しようか?」 「はい。お願いします。」 その日から、オレと谷ヶ崎さんの奇妙なカンケイが始まった。
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