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放課後会議
ある日の放課後。閑散とした教室にいるのは三人の男子生徒。誰かの椅子を拝借し、三角形を形作って向き合っている。表情は真剣そのもの。空気が糸を強く引っ張ったようにピンッと堅く張り詰めている。
「おい……俺らが集まった理由、お前ら当然分かってるよな?」
沈黙を破って、話を切り出したのは坊主頭の男。肩幅が広くガッチリした体型の、まさに野球部という見た目をしている。じろじろと見る坊主に、二人は無言で頷いた。
「なーに分かりきったことを聞いてんだよ。なぁ、白野?」
「う、うん。勿論、理解してるよ」
片側の口角だけを上げ、ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべたのは細身の茶髪の男。シャツの第一ボタンを開け、学校指定では無いセーターを堂々と着ている。髪型も流行りを意識しているのか、妙に洒落ている。三人の中では一番派手な容姿だ。
それに反して、白野と呼ばれたもう一方の男は見るからに大人しそうだった。特に弄ってなどいないであろう黒髪。きっちりボタンも閉め、ネクタイも締め、尚且つブレザーまで着ている。
どう見ても毛色の違う三人。この三人は普段は特に仲の良い訳では無い。クラスこそ同じではあるものの、属するグループがちがう。だが、彼等には一つだけ共通点があった。
「分かってるならいい。それじゃ、始めるぞ!」
「はいはぁーい」
「うん、いいよ」
返事を聞いて、坊主頭は一枚のA4サイズの紙を取り出した。その紙には濃い筆圧で乱雑に文字が書き込まれていた。白野は目線を落として、小さい声で文章を呟いた。
「クラスのマドンナ、桜庭芹を射止める会議……」
「はっ、ネーミングだっさっ!」
「そんなことないだろ!?」
白野が読み終わる前に、馬鹿にした声で遮ったのは派手な男。嘲笑に食いついたのは坊主頭だ。
坊主頭がわざとらしく咳払いをする。緩みきった空気を仕切り直そうと、もったいぶって話し始める。
「まぁいい……つまり、俺と翔也と白野は芹ちゃんを取り合うライバルって訳だ!」
「端的に言ったらそーなるねぇ」
「はっきり言われるとちょっとあれだけど……ね」
重々しく言う坊主頭に比べ、派手な男……翔也はだらけた雰囲気である。白野は恥ずかしそうに笑い、照れを隠せていない。
「ライバルだからこそ! 俺たちは協力する必要がある……白野もそう思わないか?」
「え、えっと……」
「もー、白野を困らせんなよ脳筋」
「誰が脳筋だァ!?」
「わぁうるさぁーい」
「け、喧嘩はだめだよ」
学生らしいノリと勢いのある会話。本気の喧嘩というわけでもなく、ぎゃあぎゃあと喧しく騒ぎ立てているだけ。
ひとしきり騒いだ後、またもや仕切り直そうと試みる坊主頭を遮って翔也が呟く。
「ていうかさぁ、オレ……芹に告っちゃったんだよね」
なんでもない事のようにさらりと言いのけた翔也に、数秒その場の時間が止まる。一瞬の静寂の後、坊主頭の大きな叫び声が教室に響き渡った。
「こ、告白したって……け、結果はどうだったの?」
恐る恐る聞く白野に、翔也はにっこりと茶目っ気のある笑顔で答えた。
「オーケーだったよ。だから今はオレ、芹の彼氏」
翔也の言葉を聞いて、坊主頭が再び叫んだのは言うまでもない。
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