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去っていった人物の名はトゥエルブ。本名を捨て十二歳の若さで怪盗となった少年だ。
予告状をしっかりと受けとってくれたケイソを見て、今日彼はかなり満足そうにしている。自作の車を運転しながら鼻歌を歌う。
そしてアジトのドアを開ける動作すら音符が飛び出しそうな勢い。戻ると助手と目が合った。
「ああ、トゥエルブ。そういえば予告状を出してたガラス玉のお宝なら、僕が買っておきましたよ」
そんな助手の悪びれもない言葉に、目の前が真っ白になるのを感じた。トゥエルブはリビングのソファにたおれ込むが、怪盗生活で鍛え抜かれた根性で、なんとかふんばって起き上がる。
「ちょっと待て、なんでよりにもよって俺様が盗もうとしているものをイレブンが買っちゃてるんだよ! ていうか売る方も売る方だ! あんなもの、売るんじゃねえ!」
「あなたが予告状を出した瞬間にガラス玉はオークションにかけられていましたよ。懸命にも盗まれるぐらいなら、思い切って売った方がマシだと考えたんでしょうね。たまたまですが僕はSiさん、いえ当主のケイソさんとたまに取引しているので、向こうも喜んでくれました」
「オークションって……おまえ、闇市でも行ってきたのか?」
「いえ、フリマアプリで落札しました。闇市よりもずっと便利ですよ。合法ですし」
トゥエルブはランチに毒が仕込まれていた幼少期を思い出す。今よりもずっとひどい記憶に思いをはせないと、苛立ちで暴れそうになったからだ。
「たしかにフリマアプリは便利らしいな……だがな、あのガラス玉だけはダメに決まってるだろ!」
「たかだかちょっと綺麗なガラス玉じゃないですか、買えるものは買っときましょうよ。それとも、また呪われた骨董品類だったんですか?」
イレブンの鋭い指摘にトゥエルブはそっぽを向く。
トゥエルブが今回エルド家から盗もうと思っていたもの。それは「ブラックホールをランダムに出現させることができるガラス玉」だった。
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