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1話 ○と罰
夏の匂いが感じられた、7月の朝。
パタパタと下敷きで顔を仰ぎながら、背もたれに体を預けた。
新緑が風に揺られ、キラキラときらめくのを
優一は眺めていた。イヤホンから流れる『新世界より』に耳を傾けながら
頬杖をついた右手の人差し指で小刻みにリズムを刻む。
クラスの喧騒がやんだ。優一は扉に目を送る。
いじめられっ子の健太が登校してきたのだ。
『新世界より』がピタッと止み、小さな笑い声が聞こえた気がした。
オドオドとしながら椅子に座る健太を尻目に窓の外に目をやると
光る葉の姿はどこにも見えなくなっていた。
優一のイヤホンからはしっかりと『新世界より』が流れているのであった。
昼までの授業が終わり、優一は購買へと向かった。
右耳にイヤホンをしながら左手をポケットに、目線はいつも窓の外だ。
購買で小さな菓子パンを一つ買った優一は、両耳にイヤホンをつけ
『新世界より』を大きめの音量で流した。
人の少ない教室でひとりため息をこぼす。
暖かい風が、それを夏の匂いともに連れ去っていく。
濁った気持ちを置き去りにして。
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