春のおわりに

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知人は加賀龍次(かがりゅうじ)、 美大のOBで イラストレーター “RYU”として わりと売れっ子。 四十にしては若く見えるし、 なにより ”イケダン“。 仕事も子育てもスマートにこなす 妻帯者をそう呼ぶのだと 安隆は、愛華より教わった。 「理想の旦那さまがこんなとこで  女と悪ふざけなんだから」   龍次の膝の上で 熱帯の植物のように 手足を絡める愛華、 安隆がいることもお構いなしに。 初めてのときには 居場所の無さに困惑したけれど 二度、三度となると 慣れる・・・いや、むしろ その倒錯に酔うのか・・・。 「じゃあ、俺は “理想の家庭” で  “イケダン” を演じてくるわ」 そう言って帰宅する龍次のあと、 愛華に誘われてベッドへ入ると 淫らな音以外には何もない部屋で 愛華を歓ばせることに ただただ埋没・・・ そして、夜明けには 奇妙な戸惑いと後悔で 東京の街を眺める、 そんなことを半年以上している。
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