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雨宿りのために入った洞窟は、やけに広く奥深かった。鉱石の採掘場なのかと思ったが、すぐに違うと分かった。
(そういえば、この辺りには『邪竜の魔窟』と呼ばれる場所があるんだったな)
目の前で唸る黒いドラゴンを見て、戦士は思い出した。いつ、どこで聞いたかまでは定かではない。
巷ではドラゴンと言われているが、どちらかといえば大蛇のような外見だ。
確か、頭のとさかが王冠を思わせることから『蛇の王』とも言われていたはずだ。羽が生えているし足もあるので、ドラゴンで間違いないだろうが。
(それにしても、小さいな)
はるか南方に住むという『ゾウ』という生き物くらいの大きさはあるだろう。生き物としては巨大だが、戦士が記憶している限り、ドラゴンとしてはかなり小柄だ。もしかしたら、まだ子供なのかもしれない。
だが、戦士には関係のないことだ。
何の迷いもなく剣を抜き、ドラゴンに歩み寄る。
ドラゴンが目を見開く。その瞳に赤い光が蠢き出した。
(石化か)
やはりここが、例の魔窟なのだろう。生憎、戦士にとっては何の痛手にもならない。だから、歩みを止めることなく近づいた。獲物を追い込むように、ゆっくりと。
ドラゴンが雄叫びを上げ、首を突き出してきた。
戦士は攻撃を避けると同時に地を蹴り、ドラゴンの首に飛び乗った。
(いきなり首を差し出すとは、随分と不用心なドラゴンだ)
戦士はすかさず、剣をドラゴンの首に突き立てた。
だが、その切っ先は鱗を突き通すことなく、鉄を打ったような音だけが洞窟内に反響した。
(随分と頑丈な体だ。いや、鱗が硬いのだろうか……?)
試しに切りつけてみたが、これも効かない。
不意に、横から強い衝撃が襲い掛かった。視界が反転し、転げ落ちた衝撃と共に岩で覆われる。何が起こったのか分からないが、おそらく、尻尾で叩きつけられたのだろう。
「いやあああああああああ!! 動いたああああああ!?」
突然、娘のような声を耳にした。このドラゴンの巣窟に娘でも潜んでいたのかと思ったが、それらしい気配はなかったはずだ。
さすがの戦士も少し困惑した。頭が転げ落ちていなかったら、首を傾げていただろう。
状況を判断するべく、ひとまず自分の首を拾うことにした。どういうわけか急に静かになり、重い金属の音だけが響いた。己の身体が身にまとう鎧の音だ。
頭を拾い、首に近付ける。瞬く間に首と胴が元通りになった。どういう仕組みなのか知らないが、体の部位を切り落とされても、切断部に近付けるとこうなる。
状況を判断するべく、戦士は振り返った。
「あ……あんた……」
どうやら、聞き間違いではなかったらしい。そこに立っているのは確かに少女だった。
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