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肩くらいの長さの金髪に碧眼の、黒いドレスを着た少女だ。おそらく、世間的には美しいと言われる類の顔だと思うが、わなわなと震えながら指をさすその顔は、お世辞にも美しいとは言えない。
そして、どういうわけかドラゴンの姿は綺麗さっぱり消え去っていた。目の前で勝手に動揺している少女しかいない。
考えられる可能性は、一つ。
「……お前、ここにいたドラゴンか?」
「そうよ!! ていうかあんた、何てい……生きて……」
「見ての通り、俺は動く骸骨だ。全身を灰にでもせん限りは生き続けるだろう」
「…………」
「今更何を驚いている。最初に俺の姿を見ても動じてなかっただろう」
「え……えぇ! 動じてなかったわよ! 断じて!!」
(睨んでくる割にはやけに尻込みするドラゴンだと思ったが、そういうことか……)
「ちょっと! 黙ってないで何とか言いなさいよ!!」
「……何故、服を着ている」
「は、はぁ!?」
「ドラゴンの姿の時には、服など着ていなかっただろう。人間になったのなら裸――」
「あんたデリカシーって言葉知ってる!? 魔法で作り出したに決まってるでしょう!!」
何か言えと言われたから疑問を口にしたのだが、どういうわけか少女は顔を真っ赤にして怒り出した。随分とうるさい娘だが、うるさいのは別に嫌いではないので放っておくことにした。
(魔法で服を作る、か……)
魔法は詳しくないが、物を無から作り出す魔法が高度であることくらいは知っている。まだまだ未熟そうだが、ドラゴンの例に違わず魔法には長けているようだ。
戦士はとりあえず、その場に腰を下ろすことにした。奥深い洞窟だが、入り口から離れて過ぎてしまうと外の様子が見えない。外部の情報が遮断されるのは、旅をする上ではあまりよろしくない。
「……って、あんた何してんのよ!?」
「雨宿りだ。元々そのつもりでここに来たからな」
「……あんた、自分の状況分かってる?」
「あぁ」
「驚かないのね。ドラゴンが人間の姿になったっていうのに」
「ドラゴンなら別に珍しくもない。実際に目にするのは初めてだが」
急に少女が黙り込んだ。風と雨の音しかしない。
少女が、ゆっくりと歩み寄ってきた。足音が静かに、だけど確かな音を立てて響き渡る。
その足は、座り込む戦士の目の前で止まった。大きな青い眼で、じっと戦士を見据える。
「私が、怖くないの?」
「よく分からん感情だ。人は俺の姿を見るとそう感じるらしいが」
「……私を殺さないの?」
「あぁ」
「でも私、あなたを襲ったわよ。それに、毒を吐くわ。今もね」
「今も?」
「魔法じゃないわよ。生まれつき、私の種族の息はそういう風になってるの。こればかりは、私の意思ではどうしようもないのよ」
「そうか」
「そうかって、それだけ……?」
「俺には関係のないことだ」
「……もしかして、同情してる?」
「同情、というのもよく分からん。単に殺す理由がないだけだ。硬すぎてとても食えたものではない」
「はぁっ!? あんた、まさか私を食料として見てたわけ!?」
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