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「他にどう見る必要がある?」
ようやく静かになったかと思えば、また息を荒げ出し、不満げに睨みつけてくる。何とも忙しい娘だと、戦士はぼんやりと思った。
「ていうか、何で毒も石化も効かないのよっ!?」
「俺は見ての通りただの骨だ。毒や魔眼の類は効かん。もっとも、毒に関しては、矢などで直接骨を射抜かれたら話は別だが」
「でも頭は取れたじゃない!!」
「さっきも言ったが俺は滅多なことでは死なん。肉がないから打撃には弱いがな」
「だから、骨のくせに甲冑なんか纏ってるの?」
「あぁ。いわばこれが肉のようなものだ」
「……良いじゃない、それ。肉より硬いもの」
少女がストンと戦士の隣に腰を下ろす。どうやら、もう警戒されてはいないらしい。
「あーあー、何だかあんたと話してると毒気が抜かれるわ」
「毒の息を吐くのにか?」
「……人がせっかく褒めてやったのに」
「そうなのか?」
少女が大きくため息をつき、黙り込んだ。戦士も特に話すことがないので黙る。洞窟内が再び静寂に包まれた。激しい雨の音が洞窟内にまで響き渡る。
「……私の一族ね、人間には『邪竜』って呼ばれてるのよ。毒の息を吐き、鋼のような鱗を持つ恐ろしい怪物なんですって」
「この辺りでは『バジリスク』という呼称で通っている」
「そんな名前なんだ」
「蛇の王とも呼ばれている」
「はぁっ? あんなにょろにょろしたキモイのと一緒にされてるわけ?」
「実際、似てると思うが」
「冗談じゃないわ!! 私、蛇は大っ嫌いなの!!」
「そうか」
ドラゴンは巨大だ。もしかしたら、人間がミミズを嫌悪するのと似たようなものなのかもしれない。
「……私のパパとママ、人間に殺されたの。ママは、私を庇って死んだわ」
「そうか」
「毒を吐く怪物だから、大金がかけられてるんだって。ママが言ってた」
「それで冒険者は喰っているからな。ドラゴン退治は難関だが、稼げる上に名誉も得られると、昔から需要が高い」
「……くだらない。私たちを殺さなくたって、自分で獲物を捕まえればいいじゃない」
「別におかしな話ではない。金は生活に必要なもの全てと交換できるからな」
「楽して生きられるってわけね。私たちを殺すことで……」
少女の声が、洞窟内で反響する。低く、唸るように。
「……私、夢があるの」
「夢?」
「えぇ。いつか人間を滅ぼす。そうすれば、こんな薄暗い洞窟の中で怯えて過ごさなくてもいいんだから」
「滅ぼすということは、全ての人間を殺し尽くすということか?」
「当たり前でしょう!!」
少女は勢いよく立ち上がり、これでもかというくらいに叫び出した。
「あいつらは、私のパパとママを殺した!! 仇なのよ!! それだけじゃない!! 今も私の姿を見ると殺そうとするわ!! だから私はここから出られないのよ!! 好きで毒を吐いてるわけじゃないのに!!」
「…………」
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