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「許さない!! 私から何もかも奪って、今でも奪い続けるあいつらを、絶対に許さない!! 絶対よ!!」
気が済むまで吐き出したからか、先に喉に限界がきたのか、少女は叫ぶのを止めた。肩を大きく上下させ、顔を紅潮させている。
その様子を、戦士は黙って見つめていた。
「……何よ。そんな馬鹿なことは考えるなとでも言いたいわけ?」
「いや。ただ、首が転がっただけで悲鳴を上げるような娘に、人間を滅ぼすなんてことが出来るのだろうかと思っただけだ」
「ち、違うわ! あれは……死んだと思ったのに歩いていたからびっくりしただけ……そうよ!!」
「外に出れば、思いもよらないことなどいくらでも起こるぞ」
「だからちょっと驚いただけだって!!」
「実際、手立てはあるのか?」
「う……」
少女が口を尖らせて俯く。まぁそうだろう、と戦士はあっさりと納得した。
いくら強大な力を秘めていても、相手は種族としては最多の数を誇る人間だ。その上人間は知恵を振り絞る。最も非力であるにも関わらず最多なのは、その知恵と知識故だ。
それをたった一匹のドラゴンが滅ぼすというのは、傍から聞いても現実的ではない。何も言い返せないのは、少女もそれを充分に承知しているからだろう。
少女はひとまず落ち着きを取り戻し、再び戦士の隣に座った。
「あんたは、何者なの?」
「『スケルトン』。人は俺をそう呼ぶ」
「それってあなたの名前?」
「いや。モンスターの一種だ」
「ふぅん。動く骸骨にまで名前をつけるのね、人間って」
「ドラゴンにはそういう風習はないのか?」
「あるわよ。人間が細かすぎるだけ。私にも『ノワール』って名前があるしね」
「それは、お前個人の名前か?」
「えぇ。もっとも、これは人間の言葉に訳しただけに過ぎないけどね」
「ドラゴンにも言葉があるのか」
「ちょっと!!」
少女がまた立ち上がった。本当に忙しない娘だ。ついさっき人間への憎悪を吐き出した時と違って、すぐに座りなおしたが。
「その辺りの獣と一緒にしないでくれる? こうやって話をしてる時点で言葉があるに決まってるでしょう?」
「今、話しているのは?」
「人間の言葉よ。人間と接することもあるかもしれないから学んでおきなさいって、パパに言われたの」
「その『ノワール』というのはドラゴンの言葉か? 聞いたことがないのだが」
「いいえ、南の言葉よ。『黒』って意味のね」
「……そのままだな」
「何よその微妙な反応!! 私この名前気に入ってるんだから!!」
「何故、わざわざ南の言葉を?」
「……だって、ブラックって響き、何かダサいじゃない?」
「そうか?」
「……あんたに同意を求めた私が馬鹿だったわ」
何故か少女が恨みがましく睨みつけてくる。ドラゴンの思考や感覚は、よく分からない。
「私のことは『ノワ』って呼んでくれればいいわ。あなたの名前は?」
「知らん」
「知らない? 自分の名前なのに?」
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