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その悪魔を呼び出して使役するための召喚魔術の方法が書かれた書物が即ち〝魔導書〟だ。
故に軍船や国家の船には〝魔法修士〟と呼ばれる魔導書を専門に研究している修道士が専属で乗っていたり、遠洋航海をする船の航海士は魔導書による魔術を習得していたりするのであるが……しかし、この魔導書、誰しもが自由に使えるような代物ではない。
悪魔の力を独占し、自らの権力を確固としたものとするため、宗教的権威のプロフェシア(預言)教会と、その影響下にある国々ではその無許可での所持・使用を固く禁じているのだ。
今言った魔法修士や航海士も、その教会や国の許可を得ているごく限られた者達である。
もっとも、裏社会では魔導書の海賊版が秘密裏に流通し、モグリで使用しているような輩もいたりするのではあるが……。
ともかくも、メデイアが驚いたのはそんな操船の常識に反し、ハーソンが操舵手に求めている者が悪魔の力を必要としないというからである。
「ああ、そうだ。ティヴィアスはかつて中世エウロパの海を支配した北方の海賊〝ヴィッキンガー〟の末裔でな、その伝統ある古の航海術を継承し、たとえ悪魔が味方しない荒れ狂う海だろうと己の腕一つで波を乗り越えてみせる、そんな船乗りだ。これほど操舵手として心強い人材はいないだろう。それに悪魔の加護ならば、我ら羊角騎士団が誇る魔術担当のメデイアがいれば事足りるしな」
だが、彼女のそんな疑問にもさも当然というように、金髪碧眼の端正な顔に不敵な笑みを浮かべながらハーソンはそう答える。
「え? わ、わたしは別にそんな……た、大したものでは……」
「なるほど。それでヴィッキンガーの故郷であるデーンラントなわけですか……いや、確かに逸材ではありますが、だからって帝国領内を出て、こんな冷たい海まで渡って異国の地まで行かずともよいでしょう? 逸材ではあるにせよ、羊角騎士団の艦船を任せられるほどに信頼のおける人物なのですか? ヴィッキンガーと聞くと、むしろ手におえぬ荒くれ者という印象を抱くのですが……」
尊敬し、好意を抱くハーソンに褒められて真っ赤な顔でモジモジするメデイアに代わり、アウグストが一定の理解を示しつつもやはり納得のいかない様子で再度問い質す。
「それなら心配ご無用だ。じつは昔、このフラガラッハを発見した旅で船を出してもらってな。その時は大いに助けられた。それで、皇帝陛下から海賊討伐の命を賜った際、船を任せるならばティヴィアスしかいないと思ったのだ」
露骨に不満げな顔をしているアウグストに、ハーソンは腰に帯びた剣の柄に手をかけながら、若き日を懐かしむかのような眼をしてそう答える。
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