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きっかけは勘違い
どうしてだろう、一年前よりも仕事に自信が持てるようになったのに、充実感が薄いのは。
成澤優月は深いため息と共にPCの電源を落として、立ち上がった。
食べかけだったスナック菓子をクリップで留め、デスクまわりの筆記具をジッパー付きビニール袋でひとまとめにしてから、リュックサックに放り込む。
『帰宅時には必ず私物を持ち帰ること』
入社してから二年間、同僚から言われ続けていたことは、今も守っている。うるさい男がいなくなって、今は何をどうしようとも怒られはしない。けれどその習慣が仕事の効率を上げていたのだということに、周りの人間を見ていて気付いたからだ。
「優月、もう帰るの?」
後ろの席であぐらをかいていた、先輩プログラマーが振り返った。
「俺の仕事は全部終わったし。見てよタスクボード、今日のところは他の人を手伝えるところもありません」
「あーあ、出向から帰ってきて、冷たくなったよなあ。大企業勤めの影響? それとも神長ロスでイライラしてる?」
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