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「俺と話してないで、早くやった方がいいですよ。今日は終電逃しても絶対に泊めないからね」
「なんだよ」
諦めたようにくるりと背を向け、彼は仕事の続きに着手した。
以前まではきちんと私物は持って帰っていたのに、余計なものが多くなってから集中しづらくなっているのだろう。
自分で遅い原因に気付けよ、と思いながらも「帰宅時にはちゃんと、私物全部持って帰ってくださいね」と釘をさしておいた。
返事代わりに片手を上げたが、明日の朝もこのままだろう。
(うちの会社もずいぶん変わっちゃった。神長がいなくなってから)
優月は三月に会社を辞めて独立していった同僚、神長廉のことを思い出していた。入社が一年早かった神長は、出会った頃からこの会社のエースだった。仕事においては万能型、人の心を掴むのが上手く、年上の社員たちも彼のことを慕っていた。
(俺が入社する前から神長はいたから、神長のやることとか、言うことって会社のスタンダードだと思ってたのに。俺が好きだったそういう常識って、結局はあいつ自身のカラーだったってこと。いなくなってから、気付くとか)
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