第三部

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第三部

どうやって寺から帰って来たのか覚えていない。 気がつけば俺は、家の縁側に座っていた。 顔を上げると、眼前に青く澄んだ空が広がっている。 今はまだ昼を過ぎたくらいか。寺に長くいたと思ったが、それほどではなかったらしい。 月心から、なぜりつが出て行って、どこに向かったのかを聞いた。 俺の父親を捜しに行ったのだそうだ。 俺の父親…澄晴が生きていた。しかも、雪の妖だって? 「ふっ…そうか。だから俺は、いつまでも歳を取らなかったのか」 そう呟きながら、両手で自分の頬を触り、そのまま顔を覆う。 俺は、妖と人との間に生まれた。りつと同じ半妖だった。 りつを置いて俺の方が先に死ぬかもしれないと懸念していたが、りつと永い時を共に過ごせると知って嬉しくなった。 なのに、りつは俺の家から出て行った。 その答えは、すぐに月心が教えてくれた。 「おまえの親父、澄晴が言ってたんだがな、妖同士が交わると、力の弱い方は、力を吸われて身体が消えてしまうそうだ。おまえ達の場合、鬼の子であるりつの方が、力が強い。ということは、おまえは消えてしまう。りつはさ、自分が幸晴を消してしまうなんて耐えられなくて、でも幸晴に触れられないのも嫌で、何か解決策が無いか、澄晴に聞きに行ったんだよ」 「俺に話してくれれば、俺も一緒に行ったのにっ!」 「幸晴は、自分が妖だとは知らなかっただろ?何となくは思っていたかもしんねぇけど、知らなかっただろ?だから、りつは話せなかったんだ。それにおまえ、りつの傍にいて、触るのを我慢できるか?自分は消えてもいいから、りつに触れたいとか言うんじゃねぇの?りつはそれがわかっていたから、黙って行ったんだ…。でも心配すんな。日現の爺が一緒に行ってる。あの爺は、特別頑丈で強いんだ。それに、りつは解決策を聞いて、必ず帰って来ると約束した。だからさ、ここで俺達とりつの帰りを待とうぜ」 月心はそう言って、項垂れた俺の肩を叩いた。 俺は力無く頷いて、ふらふらと立ち上がり寺を出た気がする。そこからの記憶が無い。りつのことばかり考えて、気がついたらここに座っていた。 その日から俺は、何日も家に閉じこもっていた。 何度か月心とるりが来たようだが、俺は外に出なかったし返事もしなかった。 そして、りつがいなくなって七日ほどが過ぎた頃、俺は居ても立ってもいられなくなり、簡単な旅支度をすると、りつを追いかけて旅に出た。
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