343人が本棚に入れています
本棚に追加
月心から聞いたりつが向かっているという場所を目指して、昼も夜も歩き続けた。
何日も何日も歩き続け、いつしか秋が来て過ぎ去り、冷たい風が吹く冬に入った。
山から山へと移動する間に、ぽつぽつとある民家に二人のことを尋ねながら、後を追った。
そして、俺の父親がいるという土地に着いた時には、辺り一面がすっぽりと雪に覆われていた。
「本当に俺は雪の妖なんだな。月心に聞いて自分がそうであると自覚してから、全く寒くない…」
雪深い山道を進みながら、俺は独り言を呟く。
今までも寒さには強かったが、今は格段に違う。
雪を触っても、冷たく感じないのだ。雪の下から湧き出る水で顔を洗っても、全く冷たく感じないのだ。
そして何より驚いたのは、不思議な力が使えるようになっていたこと。
俺が天に手をかざすと、俺の周囲だけ雪が止む。腕を振るうと、強い風と雪が吹き荒ぶ。半分凍ってチョロチョロと流れ落ちる滝に掌を向けると、一瞬にして全てが凍る。
「なるほど…。これが雪の妖の力か」
もっと前からこの力があれば、りつが盗賊に襲われた時、難なく助けることが出来たのに。りつに鬼の力を使わさずに済んだのに。
俺は、りつには嫌な思いも怖いこともさせたくないのだ。
これからは、俺がどんなことからも守ってやる。だからりつ、早く俺の腕の中へ戻れ。
ひたすらりつのことだけを考えて、雪深い山道を進んだ。
普通なら雪に足を取られそうな道も、難なく進んだ。
かなりの速さでここまで来たから、二人にずいぶんと近づいた気がする。
もうすぐりつに追いつくかもしれないと思うと気が急いて、休むことなく歩き続けた。
そして、この土地に入って二日が過ぎた日の朝、鬼の気配を感じた俺は、その場所に向かって更に足を早めた。
距離が縮まるにつれて、はっきりと「りつだ」と認識した。
これも、自分が何者であるかを自覚した為に現れた力の一つなのかもしれない。
鬼の気配がりつだとわかってから、全力で雪の上を走った。雪に足を取られることも無く、するすると雪の上を走った。
りつに会えば、強く抱きしめよう。永らく触れていなくて、おかしくなりそうなんだ。それに、俺を置いていったことを怒ってもいいよな。ああでも、まずはりつの顔を近くで見たい。
その時、りつのいる方角から血の匂いがして、俺の足が止まった。りつに会えると弾んでいた鼓動が、一瞬止まった気がした。
「これは…りつの血の匂い…っ!それに、りつのことで頭がいっぱいで気づかなかったが、他の鬼の匂いもするではないかっ!」
ぞくりと背中が震える。自分が雪の妖であると自覚してから、初めて寒いと感じた。
最初のコメントを投稿しよう!