お客さんとお酒飲んだりお喋りするだけの簡単なお仕事

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 もちろん玲香も親の主張は理解できた。  何しろ今まで十数年間大事に育ててきた1人娘だ。出来ることなら安定した仕事に就いて欲しい。間違った選択をしたために苦しい思いをして欲しくない。  けれど、それでも玲香は夢を追いたかった。だからどれほど自分にとっての大事な思いを、宝物を否定されても食い下がった。何十回、何百回と同じ問答を繰り返し、どんなに神経をすり減らしても諦めなかった。  ……しかし親との将来に関する話し合いは何年も平行線をたどり、心の距離ばかりが開いていく。  そして、ついに玲香は家を出る決心をしたのだ。  大切な夢を追うため、親の反対を押し切って安城市の高校から名古屋のデザイン系の大学に進学した。  だが、家出同然で飛び出した玲香に両親が仕送りなどしてくれるはずは無く、玲香もしてもらうつもりなどなかった。  そのため大学の学費は奨学金で、生活費はバイトで今まで(まかな)ってきたのだが……。  先日、1人暮らしのアパートから程近い場所にあるバイト先の本屋が経営不振で潰れてしまい、一年と一ヶ月の間お世話になってきた職場を玲香は追われることとなってしまったのだ。  もっとも、一つの職場がなくなっただけならどうということはない。  我を通すため、何年も粘り強く親と戦い、自分の食い扶持(ぶち)も自分で稼いできた玲香だ。  この際どんな仕事でも構わない。そう思って新しいバイト先を探しているのだが……。
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