お客さんとお酒飲んだりお喋りするだけの簡単なお仕事

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お客さんとお酒飲んだりお喋りするだけの簡単なお仕事

      ⭐︎  (……はぁ、これからどうしよう……)  夕暮れ時の空の下。暖かな斜陽が差し込む名古屋某所の公園の一角で、1人の若い女が重苦しいため息をついていた。  (新しいバイト先全然見つからないよ……。もう諦めて親頼るしかないのかな?)  デニムのパンツに白黒のボーダーシャツを身につけ、更に薄い水色のブラウスを羽織り、縁無しの眼鏡を掛けたその女は、アニメキャラのスマホケースに入った自身の端末に死んだ魚のような視線を落としながら、胸の内でボソボソと悲壮感漂う言葉を吐き出し続ける。  女の名前は稲羽(イナバ)玲香(レイカ)。先月の4月で二十歳(はたち)になったばかりの大学二年生である。  今から数年前。まだ彼女が高校生だった時に勇気を出して両親に将来の夢の話をしたのだが、イラストレーターになりたいと切実に訴える玲香に、彼女の両親は難色を示した。  なぜイラストレーターになりたいんだ? 他の仕事ではだめなのか? 絵なら趣味として描けばいいじゃないか。絵描きなんてまともな仕事じゃない。会社勤めの方が給料も保証もずっといいだろう。どうして親の言うことが聞けないんだ。  (かたく)なに玲香の夢を認めようとしない親に、それでも玲香は懇々(こんこん)と、どれほど夢を否定されても説得し続けた。  しかし、親の考えは変わらなかった。
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