4.LA観光

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「え……?」 そう高い声音を上げたのは佳乃だったが、こちらを見上げたのは二人ほぼ同時だった。 何処か戸惑いを隠せないというように、揺らぐライトブラウン系の瞳と、少し距離のある混じり気のない漆黒の瞳がこちらを真っ直ぐに射抜く。 しかしこの行為に最も驚きを隠せないのは、己自身だった。 「…………あ…」 忍は咄嗟に、温かみを帯びていた彼女の指から己の右手を離す。 は一体何を思っての行為だったのか。 だが考える前にひとまず何か言わねば、と忍はやけに渇ききった口を開いた。 「……なにも、あんたがそこまでする必要ないだろう…」 少し冷淡に聞こえてしまっただろうか。 彼女は一度瞬きをすると、薄く開いていたカーネーションの唇を閉じると共に、その長い睫毛を伏せた。 しかしそれは一瞬のことで、直ぐ様顔を上げるとこちらへと向き直った。 「そうですよね…。ごめんなさい……」 そして申し訳なさげに控えめな微笑を浮かべた彼女に、忍は「いや、そうじゃなくて」と咄嗟に返す。 「俺はただ…」 そこではたと、忍は言葉を切る。 _……“俺はただ”? その先に己は何を続けようとしていたのか。 一つ一つ言葉を整理することを試みるも、それは何故か一瞬で崩れ去ってしまう。 まるで試験当日、覚えていた語句を一気に忘れてしまったかのようだ。 結局、「……いや、何でもない」と歯切れ悪く思考を断念させるしかなかった。
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