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結城尊、つまり忍の異母弟が入院することに
なったのは、とある事件に巻き込まれて
怪我を負ったからである。
指定暴力団という家柄のため、組長の父を
始め何かと他の組から恨みをかっていた
結城家は、縄張り争いという名の抗争に巻き込まれることが少なからずあった。
この日も“結城”の縄張りの範囲を快く
思わない、「神条組」という連中に、忍と尊は呼び出されていた。
「おいおい、お坊っちゃん二人だけって……
大丈夫なのかよ?」
人気のない路地裏で、早速挑発的な言葉を
投げ掛けるここでのリーダーと
おぼしき男。
そんな余裕綽々な彼の
言葉に、忍は確かにな、と周りを見渡す。
_ざっと10はいるな……
忍と尊の目の前に立ち塞がるその男は周り
に、こちらをじろじろと上から下まで
なめ回すような目付きをする、数人の派手な男を従えている。
これは勝目がないだろう。
普通はそう思うところだが、忍にとってこの
戦略は経験済みだ。
無論、尊も。
ついと視線を“リーダー”に向け、その挑発的な眼差しを受け取った忍は、素早く持ち前の
観察眼で彼を見定めていく。
「兄貴」
連中の何かに気付いたのか、尊はにやりと
口端をつり上げ目配せした。
それを受けた忍も視線を合わせ、
「あぁ」と頷く。
“リーダー”の男は高級感を醸し出す黒の
スーツを身に付け、すっきりとした髪は
きっちりワックスで固めてある。
そして何より革靴に、“お坊っちゃん”
という呼び方。
_俺たちを知ってるのか……
ということは間違いなく、ここの
幹部の1人だろう。
忍たちはこういう場ではいつも、あえて組長の息子とは名乗らず、幹部のふりをする。
理由は命取りになるからというのが、一番
大きい。
ところがどうだ。
そんな一幹部ともあろう“リーダー”が
引き連れているのは、歯もたたない
下っ端の寄せ集めではないか。
_“結城”もナメられたもんだな
「クっ……」
堪らず忍は喉を鳴らし、目の前の男らを
嘲笑った。
その行為に軽く舌打ちをした下っ端の1人が、忍のある意味の挑発にのるように
こちらににじり寄る。
「……何が可笑しいんだよ」
そんな男の、刺すような至近距離での視線など意にも介さず、腹を抱えてひとしきり
小さく笑い終えた忍は、スッと真顔に戻り
男に視線をやった。
「頭数だけの雑魚に、
用はねぇよ」
「あーつまらん」とぼやき、その横をすり抜けようとした忍に、男は素早く殴りかかるべく拳を飛ばす。
が、それを予期していた忍は無造作に顔を
避けてかわし、驚き振り返った男に
回し蹴りを喰らわせた。
ガッという鈍い音がし、男はその場に
崩れ落ちる。
それを合図にしたように、“リーダー”の横
から一斉に下っ端たちが忍と尊に
飛びかかってきた。
「尊!」
忍はすかさず弟に指示を送る。
「了解!」
そして尊は素早く忍との距離をとると、
「兄貴だけじゃなくて、俺も相手してよ」
ほぼ忍に集中していた連中を半分に分けさせるべく、右の人差し指で彼らを誘った。
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