0.発端

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だが連中の一人は、そんな尊を軽く鼻で 嘲笑った。 「いや、お前……どう見ても貧弱そうだろ」 その言葉に尊はふむ、と自身の体を 見下ろす。 確かに忍より細身な体型で身長も低いが、 彼は瞬発力と言葉巧みに相手を惑わす術を 持ち合わせている。 _例えばそう、このように。 「なぁ……“人は見かけによらない”って 言葉、知らねぇの?」 「……あ?」 男は片眉を持ち上げると、その挑発に容易く 乗せられた。 尊は目の前に素早く飛んできた右拳を、 わざとらしく「おっと」と避けると、 振り向き様に男の股間を蹴り上げた。 そのまま声にならない声上げ、崩れ落ちる 男を尻目に、尊は爽やかな微笑を浮かべ 額の汗を右の甲で拭った。 「ふぅ……」 そんな尊の気配を感じつつも、忍は己に 手を上げる下っ端たちを雑作なく 蹴散らしていく。 やがて“リーダー”以外の男全員が呆気なく 忍たちの足元に崩れ落ちると、小さな拍手 が起こった。 少し荒くなった息を両肩で整えた忍は、 怪訝な表情を浮かべ、そちらの方向へと 顔を向ける。 「いやぁ~お見事」 拍手と共にそんな軽い声音を降らせたのは、 無論“リーダー”だった。 「流石(さすが)、都内一の勢力を誇る 結城組のお坊っちゃん二人だ」 だが忍は男のおべっかに表情一つ変えることなく、その張り付けたような笑みを 見定める。 「……何が目的だ?」 何かが可笑しい、と忍は思った。 この男の、周りの連中がことごとく崩れ落ちたにも関わらず、余裕に満ち溢れた笑みと、 動じない態度。 そして何より、幹部という立場の人間が何故 歯もたたない下っ端を雇い、忍たちに 仕向けたのか。 _まだ何か“仕掛けて”いるのか……? すると男はそんな忍の訝しむ視線に 気づいたのか、僅かに口角をつり上げた。 「“油断大敵”って言葉があるだろ? 実はこんなサプライズも用意しておいた」 そう意味深な言葉を発したかと思うと、男は 背後に立て掛けられている古びた看板を 右足で思い切り蹴り飛ばした。 「!?」 忍の見開かれた瞳のその先には、一人の女が 椅子に手足を縛り付けられていた。 その膝には、小型だがタイマー式の爆弾が 紐で括りつけられている。
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